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solo exhibition/5 artists vol.5 木藤純子展

(手前)「honey moon」 蛍光灯、鏡、蓄光蝋 2006年/(奥)「R.E.M」 蛍光灯、他 2006年/撮影:大須賀信一


風景のない旅

TEXT 藪中いずみ

 JR岐阜駅から徒歩10分。住宅地の中に突如現れる大きな倉庫の2階にギャラリーキャプションはある。古びた外観に映えるオレンジ色に階段を登っていくと、奇妙な音が聞こえてきた。ちょうど洗濯機が回っているような低く規則正しい音。「ギャラリーで洗濯?」不審な気持ちを抱きつつ、展示室に入った。
 真っ暗闇の中で青白い円が規則正しく左右に揺れている。頭上からはさきほどからの奇妙な音がさらに鮮明に響いてくる。目を横にやると、私の肩くらいの高さに、目の前で揺れている円形の物体と同じものが壁(であろうところ)から突き出ている。その下、床(であろうところ)にはうすぼんやりとした円形がほのかな光を放っていた。余韻のある響きと機械的な動きを眺めているうちに、意識が徐々に遠のくような感覚にとらわれる。
 「バチンッ」という大きな機械音とともに、室内が真昼のように明るくなった。夢うつつの状態からたたき起こされたような気分で室内を見回す。揺れているのは、どこの家庭にもあるような蛍光灯だったのだ。壁から突き出しているのも同じ。そして不審な音の正体は、蛍光灯を揺らすために駆動している機械が発しているものだった。一体これは何なのだろう。頭の中に疑問符がうかびつつも、私は背筋のあたりにゾクゾクしたものを同時に感じていた。
 この作品を制作した木藤純子はインスタレーションを中心に発表をつづけている作家であり、長年の友人でもある。去年の冬、彼女がアイスランドを旅したことが今回の作品のインスピレーションになったことは事前に聞いていたが、目の前にくりひろげられる光景とのギャップは容易には埋まらない。
 私はアイスランドを旅したことはないので木藤が見た風景、感じた空気、 そこから抱いた心象に共感することはできない。けれども、彼女が創り出した空間の中にいるとき、私は私の中で旅をしていたように思う。
 潔く完結した彼女の作品が、それに反して持つ深い余韻。引き出しの奥底に埋もれた記憶をそっと揺り動かす。たぶんそれが、私が感じた「ゾクゾク」の正体。

著者プロフィールや、近況など。

籔中いずみ(やぶなかいずみ)

1977年大阪府生まれ。
1999年成安造形大学造形学部卒業。
京都のデザイン会社でライター修行中です。


不思議な小旅行的空間

TEXT 野田利也

 岐阜にあるギャラリーキャプションにあるsmall room(キャプションには開放感のある広い展示スペースと、密閉感のある狭い展示スペース(small room)がある)を利用した、若手アーティストの連続個展「solo exhibition/5artists」の第5回目。
 その薄暗い展示室に入ると、青白く発光する物体が膝丈あたりでカチカチと振り子のように、左右に揺れる運動を繰り返していた。それはまるで、催眠術をかけられる際に目の前に揺らされる5円玉のようである。その揺れは静止へ向かってだんだんと小さくなりつつある。他方に目をやると同じくドーナツ状の物体が目の高さで中に浮いていた。さらに不思議なことにその物体は、闇の中にもかかわらず床に自身の青白い影を落としている。まるで呪術的な瞑想空間にいるかのようだ。
 ぼんやりと発光しながら左右に揺れる物体が闇と時間を支配する空間。いつしか、「見る」という確固たる行為は「そこに居る」というぼんやりとした体験に変化する。
その揺れがどんどん小さくなり、やがて止まった次の瞬間、それらの物体はバッチと電気がスパークするよう音と共に、白く強い光を放つ。闇の空間は瞬時にして光で覆われ、今まで目にしていたそれらが、日常的に目にする蛍光灯であることが解る。光に照らされた部屋では、揺れの動力であるモーターがインダストリアルな強度を、鏡を使って蛍光灯を浮かせて見せたトリックが露呈する。再び振り子は大きく揺れはじめ、今がこの物語の最初の部分であることに気が付く。そう、この木藤の「インスタレーション」には「始まり」と「終わり」のある物語なのである。
 眩い光の下、全てを露呈された空間で現実を直視する厳しい時間から、全てが闇に包まれ、ほのかな光が作り出す瞑想的な時間へと。それはまるで1日という時間を凝縮した小旅行のように感じた。

著者プロフィールや、近況など。

野田利也(のだとしや)

1972年生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業。
'05年より藤田千彩PEELERを主宰。
solo exhibition/5 artists vol.5 木藤純子展

GALLAERY CAPTION(岐阜県)
2006年5月17日〜6月3日


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