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solo exhibition / 5 artists



若手作家5人の競演―
「solo exhibition / 5 artists」より
TEXT 田中由紀子

 水野勝規、百合草尚子、本間純、松原奈々、木藤純子による展覧会「solo exhibition / 5 artists 」。これは作家ひとりひとりがギャラリーの入口近くにあるsmall roomを使って展開する、いわばリレー形式の個展だ。東海での発表が初となる本間と松原をはじめ、今後の活躍が期待される若手作家の個展ということで注目を集めた。

 
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 一番手の水野勝規の新作《untitled》(2006年)は、穏やかに波立つ水面を捉えた映像作品。何気なさ過ぎて私たちがふだん気にも留めない風景を、彼の視点で写真のように切り取ることにより、私たちにこれまでとは違った風景の見え方を提示してくれる。
 続く第2弾は、small roomの壁をピンク一色に塗り替えて展開される百合草ワールド。目鼻がある木々や空に浮かぶ雲がよく見るとパン(そういえば、以前見た作品ではブラジャーが空を飛んでいた)という展開に思わず笑ってしまう。一見マンガやイラストのようだが、見る者にさまざまな解釈を許容する多義性をはらんでいる点で絵画に留まっている。
 松原奈々は『青い鳥』から着想を得たという作品を展示。なかでも、鳥や花、星などをかたどった小さなフェルトを少し浮かして壁一面にピンで留めた《これまで誰も知らなかったような考え》(2006年)は、この作品を見るときに私たちの目がフェルト片をたどって弧を描くように動くことをとおして、すぐそばを飛び去っていった青い鳥の気配を感じさせた。
 アンカーとなる木藤純子の作品は、丸い蛍光管が振り子状に揺れるインスタレーション。暗闇の中で怪しく光る蛍光管を見ているうちに、宇宙に放り出されたような不安感とどこに立っているのかわからない浮遊感に襲われ、このことをとおして、自分にとって絶対的な存在である自分自身がじつは不確定で危ういものかもしれないと考えさせられた。
 展覧会全体を通して、最も意表を衝かれた本間純の《breeze−The statement》(2006年)は、small roomの天井に届くほどの高いポールに掲げられた大きな白い旗が、轟音と共に床置きの扇風機から繰り出される強風にあおられているというものだ。人工の風にはためく白い旗。ただそれだけなのだが、旗が風にひるがえるさまを見ていると、飽きることなくいつまでも見続けてしまう。なぜ見飽きないのかといえば、旗が強風にあおられるさまが、同じようでいてじつは同じではないからだ。ある時はポールに巻きつきながら、またある時はもつれるように大きくひるがえりながら、二度と表れることのない複雑な動きを見せる。そうやって旗は吹き飛ばされそうになりながらも強風をうまく受け流し、ひるがえり続けているのである。力まかせに旗を吹き飛ばそうとする風と、風の力を受け流す旗。ふと、イソップ童話『北風と太陽』の北風と旅人の攻防を思い出した。そうか、ここでは風と旗がせめぎあっているのだ。そこがおもしろくて、見続けてしまうのかもしれない。そして風をうまく受け流す旗に自分を重ね、誰に何を言われてもブレない自分でありたいと思う私がいた。
 本間自身は作品に寄せたステートメントに、さまざまな旗の下で表明されるアイデンティティや権威(それらはしばしば抑圧や暴力をはらんでいる)に無関係の白旗でありたいと述べている。とはいうものの、彼の白旗は強風にあおられても吹き飛ばされることなく、ひるがえり続ける。この白旗は、旗の下の抑圧や暴力に無関係という意味での白旗というよりも、それらをうまく受け流し飄々と自分らしく生きていきたいという本間の宣言のようにも思えた。

本間純《ブリーズ−春》2006年[+zoom]
  本間純《ブリーズ−宣言》2006年(2006年)
  水野勝規《untitled》DVD 2006年[+zoom]
  水野勝規《monotone 2005》DVD 2006年[+zoom]
  百合草尚子《雲》紙にアクリル、色鉛筆 25.7×36.4cm 2006年[+zoom]
  百合草尚子展 展示風景[+zoom]
  松原奈々《これまで誰も知らなかったような考え》フェルト、ピン 2006年[+zoom]
  松原奈々《扉》フェルト 40.0×20.5×D0.5cm 2006年[+zoom]
  木藤純子《honey moon》蛍光灯、鏡、蓄光蝋 2006年(写真手前)、《R.E.M》 蛍光灯、他 2006年(写真奥)[+zoom]
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  木藤純子展 展示風景 [+zoom]
写真撮影:studio-dot(写真1、2、7、8、9、10)


solo exhibition / 5 artists

ギャラリーキャプション(岐阜県岐阜市)
2006年2月14日〜6月3日

水野勝規展 2006年2月14日〜2月25日
百合草尚子展 2006年3月4日〜3月18日
本間純展 2006年3月25日〜4月8日
松原奈々展 2006年4月15日〜4月19日
木藤純子展 2006年5月16日〜6月3日
 
著者のプロフィールや、近況など。

田中由紀子(たなかゆきこ)

編集関係の仕事をしながらコツコツ評論などを書いてます。
http://www.geocities.jp/a_rtholic/




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