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“オープンスタジオ”
という展覧会
TEXT 池澤廣和
本展はミュージシャン調原作による、オープンスタジオという形式をもった音楽の展覧会である。
あらかじめ音の断片が記録されたオリジナルCDが、フライヤーとして街中に配付されていた。そのCDを持参した観客は、作家と共にギャラリー内の仮設スタジオで、断片の音をもとにひとつの音楽を仕立て上げていく。またスタジオにはギターやシンセサイザー、パーカッションなど様々な楽器があり、その場で作家や他の観客と一緒に即興で演奏することもできる。そうして集まったたくさんの音が、展覧会の会期を通して1枚のCDになっていくのだ。こうした一連の作業に関わったすべての人は、製作者としてCDに名前がクレジットされる。
ギャラリー内の仮設スタジオは、録音機材やスピーカー、コンピュータなどが配置され、赤く暗い照明の中、機材のランプだけが点滅している。作家自身が「ちょっと狂った音楽博士のアヤシイ音の実験室」と表現していたが、この部屋でいったい何が行われるのだろうか、と興味津々で覗いてしまうような雰囲気だ。
いきなり演奏しろといわれても、大抵の人が尻込みしてしまうのではと思ったが、意外にも観客はスムーズに演奏という行為を受け入れていた。スタジオのあやしい雰囲気に加え、作家がうまく観客を導くことで、音を出す作業を純粋に楽しむことができているようだった。もちろん楽器の演奏に慣れた観客もいて、即興とはいえ本格的に演奏が行われることもあり、訪れるタイミングによって様々な楽しみ方ができる展覧会であった。こうしてできあがった数々の音楽はCDに収録されており、会期終了後も会場のIAF
SHOP*で試聴することが可能だ。
また注目すべきは、展覧会を通して完成したCDにクレジットされている参加者の名前である。小畑祐也、吉良留美、石井康博、乃美希久子、瀬戸口朗子、大村直子、有村タカノブ、森田加奈子、中村善輝、耘野善之、小林ゴウ、實松亮、坂井存など・・・福岡を拠点として活動している作家の名前がずらっと並んでいる。わずか9日間のレコーディングにこれほど多くの作家が集まったことは、展覧会に対する注目度に加え、会場であるIAF
SHOP*の存在が大きいだろう。福岡の都心近くに位置するIAF SHOP*はオルタナティブ・スペースであり、夜な夜な(18時から営業開始!)アート関係者が集まるスポットとして知られている。若い人から年配の方まで幅広い人が出入りしているので、展覧会以外でも面白い発見ができるかもしれない。
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