top\reviews[東亭 順 「Touch me if you can…」/東京]
東亭 順 「Touch me if you can…」
     
   
  「Float」
   
 
  天窓の作品「Bubble」と映像作品「touch me if you can」
(*写真は昼間に撮影されたものです)
 
 
  会場風景    

最近、空を見上げましたか?
TEXT 石山さやか

日が落ちかけ、雲が空を覆い始めた午後。
ギャラリーに入ると沢山の小さな「青空」が出迎えてくれた。

東亭順(あずまてい じゅん)は写真にアクリル絵の具で色を重ねて作品を作る。今回の個展では、以前から取り組んできた「空」の作品を中心に展示がされていた。
一枚B5サイズほどの小さな作品には、雲の浮かぶ空の下に家が建っていたり、雲の中にパステルカラーの山が見え隠れしたりしている。もとの写真画像とアクリル絵の具で描かれたモチーフは画面の中で一つになじんで、実際の景色のような想像上の眺めのような、どちらともとれる風景をつくりだしている。

驚いたのは、作品の表面の質感。使い込まれたタイルか新しい石けんのような、すべすべして鈍く光る絵肌を持っている。何度もニスを塗り、やすりで磨くことでこの質感が生まれるそうだ。この作業によりアクリルのマチエールは消えて写真となじみ、写真画像の部分はさらに奥に封じ込まれて軽く遠近感すら感じる。

部屋の天井にも作品があった。天窓にかけられた「Bubble」は太陽光を通して青や緑の模様が見える作品だが、私が着いたときには日の光がもう十分ではなく、残念ながら満足のいく状況で鑑賞できなかった。
日が完全に落ちてから映像の作品「Touch me if you can」を見せてもらう。ちょっと複雑な方法で撮影されたこの映像は(何をどのように撮っているかはギャラリーの方に教えてもらったが、ひみつ)平面作品より幾分明るい印象を受けるが、やっぱり夢か現かわからない不思議な現実感に溢れている。どこかの映画タイトルにも似た作品名「Touch me if you can」…『触れるものなら触ってご覧』は触れそうで触れない幻のようなもの、頭の中にしか残っていない封じられた記憶のようなものを表しているのかも知れない。

ごつごつと自己を主張するでもなく、あまりにも磨き込まれて全てを反射するわけでもなく。東亭の作品はうすく光って、見る人の目を静かに受け入れる。  
たぶん誰もが、ここに描かれたようないつかの青空を、記憶の奥底に持っているのだろう。嬉しいことがあったあの日、空なんか見えないくらい苦しかったあの日、空はこんな色をしていて空気はこんな匂いだった。それは、もう二度と思い出してもらえないようなことかも知れないけれど。
彼はそんなようなことを描いているのだと思う。

東亭 順 「Touch me if you can…」

art cocoon(用賀)
2005年11月11日(金)〜12月4日(日)

著者プロフィールや、近況など。

石山さやか(いしやまさやか)

1981年埼玉県生まれ
2003年創形美術学校卒
現在フリーター。イラストと文章少々書けます。
現代美術はまあまあ好きです。

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