街に魅せられし者たち
TEXT 横永匡史
歴史と織物の街 桐生
桐生の街を東西に貫く国道50号線に車を走らせると、沿線にはファミリーレストランなどの郊外型の店舗が軒を連ねている。
そこから見える車窓は、無個性などこにでもある風景にすぎない。
しかし、国道を外れて市街地へと入っていくと、細く入り組んだ道沿いに年代を感じさせるビルや商店、そしてのこぎり屋根が特徴的な工場などが目につく。
そう、ここ桐生は「西の西陣、東の桐生」とも称された、織物生産で発展してきた街なのだ。
また、郊外には、中世の士族の屋敷なども残されるなど、幾多の歴史を積み重ねてきた重みを随所に感じさせる。
そんな桐生の街に魅せられた作家たちによって、街の中に作品を展示する展覧会が開催された。
このような歴史のある街の中でアート作品がどのように見えるのか、大変興味があった。
なお、会場により公開日が異なる関係で一部鑑賞できなかった作品があることを御了承いただきたい。
彦部家住宅[+zoom]
西村雄輔「Honey Work /I Asked Into the Honey」 [+zoom] |
彦部家住宅 〜場と作品との共鳴〜
まず、郊外に位置する彦部家住宅を訪ねる。
彦部家は、天皇家の血を引き、足利将軍家にも仕えたという由緒正しい家柄であり、江戸時代に建てられたという主屋他数棟は国の重要文化財に指定されている。
士族の屋敷というだけあり、敷地内には、萱葺きの主屋を中心として、庭園や竹林、石垣、はたまた旧寄宿舎など、多種多様な環境が揃っており、作品もこれらの環境を生かした作品が多いように思われた。
竹林に羊毛でできた布を張り、有機的にも思えるような存在感を感じさせる佐藤比南子、庭園に無数のシャボン玉を作り出して、目には見えない大気の流れを感じさせるとともに、空間そのものを非現実化させる平野昌史などは、まさにこの環境が作品の存在感をより高めていると感じた。
また、萱葺き屋根が重厚なたたずまいを感じさせる主屋の中で頭上に青い水を張り、土間に映る水のゆらめきが、あるときは現在のような、あるときは太古の昔のような輝きをもって、幾多の歴史を刻んだ建物と共鳴しあう飯沢康輔、大正時代に織物工場の女工たちを住まわせたという旧寄宿舎のテーブルに蜂蜜を敷きつめ、その上に張り付く落ち葉や虫の死骸ともあいまって時や場所を越えた関係性を感じさせる西村雄輔などは、その場が持つ歴史とも向き合うことで新たな効果を生み出しているように思えた。
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