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桐生再演11

桐生森芳工場

街に魅せられし者たち
TEXT 横永匡史

歴史と織物の街 桐生
桐生の街を東西に貫く国道50号線に車を走らせると、沿線にはファミリーレストランなどの郊外型の店舗が軒を連ねている。
そこから見える車窓は、無個性などこにでもある風景にすぎない。
しかし、国道を外れて市街地へと入っていくと、細く入り組んだ道沿いに年代を感じさせるビルや商店、そしてのこぎり屋根が特徴的な工場などが目につく。
そう、ここ桐生は「西の西陣、東の桐生」とも称された、織物生産で発展してきた街なのだ。
また、郊外には、中世の士族の屋敷なども残されるなど、幾多の歴史を積み重ねてきた重みを随所に感じさせる。
そんな桐生の街に魅せられた作家たちによって、街の中に作品を展示する展覧会が開催された。
このような歴史のある街の中でアート作品がどのように見えるのか、大変興味があった。
なお、会場により公開日が異なる関係で一部鑑賞できなかった作品があることを御了承いただきたい。


彦部家住宅[+zoom]

西村雄輔「Honey Work /I Asked Into the Honey」 [+zoom]

彦部家住宅  〜場と作品との共鳴〜
まず、郊外に位置する彦部家住宅を訪ねる。
彦部家は、天皇家の血を引き、足利将軍家にも仕えたという由緒正しい家柄であり、江戸時代に建てられたという主屋他数棟は国の重要文化財に指定されている。
士族の屋敷というだけあり、敷地内には、萱葺きの主屋を中心として、庭園や竹林、石垣、はたまた旧寄宿舎など、多種多様な環境が揃っており、作品もこれらの環境を生かした作品が多いように思われた。
竹林に羊毛でできた布を張り、有機的にも思えるような存在感を感じさせる佐藤比南子、庭園に無数のシャボン玉を作り出して、目には見えない大気の流れを感じさせるとともに、空間そのものを非現実化させる平野昌史などは、まさにこの環境が作品の存在感をより高めていると感じた。
また、萱葺き屋根が重厚なたたずまいを感じさせる主屋の中で頭上に青い水を張り、土間に映る水のゆらめきが、あるときは現在のような、あるときは太古の昔のような輝きをもって、幾多の歴史を刻んだ建物と共鳴しあう飯沢康輔、大正時代に織物工場の女工たちを住まわせたという旧寄宿舎のテーブルに蜂蜜を敷きつめ、その上に張り付く落ち葉や虫の死骸ともあいまって時や場所を越えた関係性を感じさせる西村雄輔などは、その場が持つ歴史とも向き合うことで新たな効果を生み出しているように思えた。


加藤力「思い出せない光」[+zoom]

加藤力「想い出となる光」
[+zoom]

石井香菜子「原風景」
[+zoom]
織物工場  〜想いが紡ぎ出すもの〜
続いて市街地へと車を走らせていく。
今回の『桐生再演11』のインフォメーションセンターとしての機能も果たす桐生森芳工場や旧・東洋紡績工場は、かつて織物工場として桐生の繁栄を支えた建物である。
のこぎり屋根の外観が特徴的な建物の内部は、当時の木の柱や梁などがそのまま残された中に、天窓から光が差し込み、繁栄の面影を色濃く残す。
その中に設置された作品は、そのような過去を反映した作品が多いように感じた。
桐生森芳工場への想いを情感たっぷりに絵画として表現し、工場の建物と並べて見せるとともに、色褪せ変わりゆく街並みの記憶への戸惑いを、工場の頭上に設置した地図という形で表現した加藤力、工場内に街並みをプリントした白い傘を並べ、かつて工場が賑わった頃の思い出の風景を映し出す石井香菜子などは、建物というハコとともに、その場に関わる人々の想いが街をつくりだしていくのだ、ということを実感させる。
また、工場の床に障子紙を張り、歴史の蓄積を感じさせながらも清新な空間を作り出す上村豊や、街中の旧理容店の建物の中に織物工場ののこぎり屋根をイメージした空間を作り出し、新たなエネルギーの胎動を感じさせる赤池孝彦、そして何よりも、取り壊される予定だったところを多くの人の熱意によって修復・活用されるようになった桐生森芳工場などを見ていると、人の想いが新たな街の希望を紡ぎ出していくように思えた。



小林加奈子「神の声受信」 [+zoom]
異邦人たちの足跡
街の中では、そこに住む人々の日常が営まれる。そんな日々の営みは、普段は特に意識されることはないが、そこにアートが加わることによって、新たな世界が生まれる。
これまでに挙げた作品の他にも、寺院の中で記憶の中の風景を呼びおこす赤坂有芽、神社の本殿の中で神秘的かつまがまがしい異世界をつくりだす小林加奈子など、何気ない日常の中に新たな刺激を生み出していた。
歴史を刻む桐生という街にとって、作品制作や展示の期間になるとやってくる作家や、そのような作家から生み出される作品は異邦人なのかもしれない。
だが、街に魅せられ、真摯に新たな表現を求める作家たちの試みは、静かに、しかし確かな足跡を残しているように思える。
それが、桐生という街にとっても、作家にとっても、新たな力を生み出す礎となることを願っている。


桐生再演11

桐生森芳工場他市内7ヶ所
(群馬県桐生市)
2005年11月3日(木・祝)〜12月4日(日)
 
著者プロフィールや、近況など。

横永匡史(よこながただし)

1972年栃木県生まれ。
2002年の「とかち国際現代アート展『デメーテル』」を見て現代美術に興味を持つ。
現在は、故郷で働きながら、合間を見て美術館やギャラリーに通う日々。



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