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TAP2005 サテライトギャラリーVol.5「小松敏宏」
「15分間」 「透視 2005.8.17」

世界を理解するひとつの方法
TEXT 横永匡史

エスカレーターを昇り、そのフロアに入ると、広々とした空間を囲むようにゲームコーナー、レストラン、市役所の出張窓口などが並ぶ。
その空間の中には、休憩用のベンチとテレビが置かれ、買い物客がひとときの休息を楽しんでいる。
そんな駅前のショッピングセンターのフロアの一角にTAPサテライトギャラリーはある。
そこで、小松敏宏の2つの作品、「15分間」「透視 2005.8.17」が展示された。

まず、「15分間」の展示室に入ると、暗い室内には1台の自転車が。
自転車の荷台に後ろ向きに設置されたプロジェクタからは、作家のアメリカ在住時の自宅〜スタジオ間の移動の際に、乗っていた自転車から撮影されたビデオ映像を壁に映し出す。
鑑賞者はその映像を、撮影時の作者と同じ視点で見る仕掛けだ。

だがその映像は、ビデオカメラのレンズ部分に展望鏡を取り付けて撮影されていて、映像に映し出された何気ない街の風景は、展望鏡の鏡によってまるで万華鏡のように分割され、まったく別のもののように見える。
最初は視覚の変化に目を奪われるとともに、変化に目がついていけず、少し酔いそうになる。

しかし、見続けて目が慣れてくると、鏡の反射によっていくつものアングルに細分化された映像を頭の中で切り替え、ひとつの光景を同時に複数の視点から見ている自分に気づく。
作者の脇を走り抜ける車、歩道を行き交う人々、沿道のビル…細かく分割された映像に映るこれらのものは、単に日常の光景として見るよりも強く印象付けられ、これらをザッピングして見続けることで、映像に映る、街という「空間」をより濃密に感じ、深く入り込んでいく。

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そして、もうひとつの展示室に展示された新作「透視 2005.8.17」へ。
展示室の外壁には、タイトルにもある2005年8月17日当時のこの展示室内の展示の写真が、逆に内側には、同日の展示室外のフロアを写した写真が、それぞれ小さく正方形にプリントされ、壁面にジグザグに多数配置されている。
写真はそれぞれ、壁の向こう側の延長線上にあるものを写し出しており、まるで壁に穴があいていてその穴をのぞいているような構図になっている。

しかし写真は、画角もアングルも写っているものも、はたまた写真の配置もまちまちだ。
作品として展示された木枝や輪ゴム、展示室外のフロアにある公衆電話や窓、ベンチの足…まるでこれらの写真を撮影した作家の「目」に導かれるように、次々と壁に貼られた写真をたどっていく。

そうしてジグザグに並んだ写真を見続けているうちに、単に壁の向こう側を見ているのとは明らかに異なる感覚にとらわれる。
写真に写るものは、一見いま壁の向こうにある風景と同じように見える。
しかし、展示室内の作品は今はないし、フロアのテレビには高校野球が映り、レストランのディスプレイにはかき氷が並ぶ。
そんな現在との微妙なズレが、逆に2ヶ月という時の流れを強く印象付ける。
頭の中で、2ヶ月前の展示室内や外のフロアの「空間」が組み立てられていくのを実感し、そして僕の心は、真夏の空気が支配する2ヶ月前の世界へとタイムスリップしていく。

僕たちの目はいろいろなものをとらえているが、それは単に目に入るだけで、そのものの表象しかわからない。
言ってみれば英語で言う“see”のようなものだ。
小松敏宏の作品は、映像を細分化することで、そこに映るひとつひとつのものを凝視すること、いわば“watch”を誘発する。
僕たちは“watch”することによって、そのものをしっかり認識して、その「空間」をも深く理解していく。

この世界を構成するいろいろな事象を“watch”し、それが何であるかを認識していくこと。
それこそが、僕たちがこの世界を理解するひとつの方法なのだ、
と小松敏宏の作品が教えてくれたような気がした。


TAP2005 サテライトギャラリーVol.5「小松敏宏」

TAPサテライトギャラリー(茨城県取手市)
2005年10月14日(金)〜10月30日(日)
 
著者プロフィールや、近況など。

横永匡史(よこながただし)

1972年栃木県生まれ。
2002年の「とかち国際現代アート展『デメーテル』」を見て現代美術に興味を持つ。
現在は、故郷で働きながら、合間を見て美術館やギャラリーに通う日々。




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