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踊りに行くぜ!!JCDN全国パフォーマンススペース間のダンス巡回プロジェクト

老若男女前橋市民が踊ったぜ!!
TEXT ウロー直美

11月5日、6日「JCDN全国パフォーマンススペース間のダンス巡回プロジェクト」が群馬県は前橋市にやってきた。
その名も「前橋中心商店街 ダンス巡行 踊りに行くぜ!!」。
二日間で観客数は延べ200人を超え、今やシャッター街となってしまった前橋中心アーケード通りを存分に盛り上げてくれた4人のダンサー、Abe"M"ARIA・松田多香子・山賀ざくろ・黒田育世のパフォーマンスをレポートします!

a)踊るAbe"M"ARIA
b)「あ゛ー、あ゛ー、あ゛ー!」Abe"M"ARIA
c)観客の帽子をかぶり絡むAbe"M"ARIA
まずトップバッターはAbe"M"ARIA。
パフォーマンスタイトルは無題。
ノイズミュージックが大音量で響きだし、今年4月に閉店した中心街最後のCD屋新星堂のシャッターが久しぶりに開いて、中が真っ赤なライトに照らされると赤いボロボロのドレスを身にまとった聖母が痙攣しながら降臨。
観客には商店のおじいちゃんとかもいるので皆アッケにとられている。
しかしキリストを産んだ肝っ玉母ちゃんはそんなことはおかまいなし。
ギャアギャアと声が聞こえてきそうな駄々をこねるような動き。
ガラス戸をガンガン叩き、地面に寝転がってジタバタし、ついに客席に突進してきた。
太った女の帽子を奪ってかぶり(その後ちゃんと返す)、主催の行政関係者に詰め寄って腕を組み、カメラを向けてくる男の股に首を突っ込んで腰をうねうね。
破廉恥な処女である。
筆者は取材で行ってるので写真撮り撮りメモを書き書きという立場での入り込み方だったけど 2000年ぶりに降りてきて世間に駄々をこねる聖母に「アンタはジダンダ踏まないのかい?」と問われているような気がした。
そんな事を考えている頃、BGMは椎名林檎(多分)に変わっていた。
そうしてAbe"M"ARIAは通りのシャッターにベコンベコンぶつかりながら消えて行ったのだ…。

このイベントは一つのステージがあってダンサーが入れ替わり踊るのではなく、次のパフォーマンスを観にアーケード内を客が移動する。
白塗りのアジテーターに誘導され、おじいちゃんが走ってる。
おばあちゃんも走ってる。
腰をシャンと伸ばし、始まりの時の温度差はもう無い。
一つの場所にむかってこんなに大勢の人が走ってる光景なんて群馬に20年以上住んでるけど見たことない。

d)取材に応じてくれる出番前の松田多香子すっぴん
e)寺の門前でそり返る松田多香子
イベント成功の兆しを感じながら筆者も遅れをとるまいと後を追って走っていくと、辿り着いたのは由緒ある有名な寺の門前。
そこには提灯に照らされ、薔薇柄の服を着た松田多香子がいた。
松田は23歳とまだ若く、今回最年少のダンサーである。
イベント二日目、彼女が待ち時間にこのイベントを機にオープンしたカフェ「YA-MAN'S」でお茶を飲んでいたところに居合わせたので突撃取材を試みた。
喋り方からして我が道を行く芯の強そうな女性、ちょっぴりワガママ子悪魔的いい女な雰囲気を醸し出していた。
パフォーマンスは「幸せってなんだろう?空に尋ねてみた。美しさを見せることさ。空は答えた。」という歌声が流れてから始まるのだが、これは11歳まで歌を習っていたという松田の声。
中学、高校を群馬で過ごし、この頃友達に連れていかれたダンススタジオで幼い時から興味のあった踊りに触れ、高校卒業後イスラエルへ渡る。
キブツーコンテンポラリーダンスカンパニーで3年間修行し、昨年帰国。
今回披露してくれたパフォーマンスは群馬県赤城山に伝わる「弟橘姫(おとたちばなひめ)」というヤマトタケルの妻の愛をモチーフにした神話をダンスに昇華したものなのだが、初演はイスラエルだった。
全身全霊で踊っている途中、ふっと力を抜いて右手の甲にキスをする。
松田の強さと優しさが表れた瞬間のようであった。

f)精子?山賀ざくろ
続いては芝生のはえた公園に移動して、唯一前橋市で活動する中年男性ダンサー、山賀ざくろ。
白いシャツ、白いズボン、白い帽子に白い靴、ラジカセを持ってフラっと登場した山賀は、おもむろに一つの白いスーパーボールを地面に投げつける。
何回も何回も。
客席に飛んでいくと素知らぬ顔で取りに行き、まだ投げつけ続ける。
パフォーマンスタイトルは「愛の嵐」。
スーパーボールをしつこく投げている様は、まるで思うような結果が出ない恋占いに何度もチャレンジしている乙女のよう。
恋の相手は…二回りは下の美青年か。
ゲイのおじさんの哀愁を感じさせるようなナヨナヨとした動き。
絶対ネコである(確認はとっていない)。
すると恋占いは諦めて突然の直立不動。
5分くらい経ったか、観客がボーっとしてくると突然ラジカセから歌謡曲が鳴りだし、山賀がルンルンと踊りだす。
直立不動はいわば勃起だったのだ。
5分で射精に達したのだ。
そうかこの白づくめは精子であった。
悶々とした恋の病からビュビュっと解放された山賀の表情は晴れやかだった。
ちなみに歌謡曲の中にはまたまた椎名林檎がセレクト(「本能」)されていた。
国民的アングラとうたわれた歌手はこんなとこでも人気が高い。

山賀のイカ臭さをはらいつつ、向かいの建物の中へ移動。

g)一本足、黒田育世
h) 衣装チェンジして登場、黒田育世
トリは黒田育世である。
チラシのプロフィールを読んでみると受賞歴などもあり4人の中では1番メジャーと思われる。
パフォーマンスタイトルは「モニカモニカvol.2」。
松本じろのアコースティックギターの生演奏をバックに、控えめなライトで薄暗く、広いが天井の低い空間でオレンジ色の生地に黒い絵の具を塗りたくったようなワンピースを着て飛び跳ねる。
全体としてはちょっと区切りが曖昧だが3部構成くらいになっている。
リハーサルにもお邪魔したのだが、何度観ても圧巻であった。表情豊かで喜怒哀楽全てを全身で表現する。
中盤、明るくなったライトに照らされて亜麻色に映る髪を振り乱し、この世に生まれてきてよかった!と純真に喜んでいる。
この世に愛が存在してるだけで狂うほど嬉しいのだ、といわんばかりの天真爛漫な表現をする黒田は疑うことを知らない白痴の少女のようだった。
とにかく幸福そうに踊るのだ。
だが曲が激しくなった後半、奇声をあげる。
どうにかなってしまいそうな現実を知ったのか大の字に倒れ込むとハァハァ息をあげている。
そしてギターの松本じろが口笛まじりの歌を歌いだすと復活。
ほのぼのとしたメロディーと黒田のどこか気の抜けたダンス。
世の中との妥協点を自ら導きだして肩の力が抜けた。
少しだけ大人になってしまった元少女は足取り軽く、ぴょんぴょんと暗闇に消えていった。
拍手は鳴り止まなかった。

レポートは以上である。
勝手な想像は随所にあるが、ダンサー全員が勝手な想像を許してくれる余地、というか懐の深さを持っていた。
松田多香子を取材した際「ダンスを辞めようと思ったことは?」との問いに「よく辞めようと思う。多分辞めないけど」と答えてくれた。
コンテンポラリーダンスからは目が離せない。
この企画はまだまだ全国をまわるのでhttp://dance.jcdn.org/ で皆さんもチェック!

 

踊りに行くぜ!!JCDN全国パフォーマンススペース間のダンス巡回プロジェクト

前橋公演<前橋番外編 『中心商店街 ダンス巡行』>
11月5日(土)/ 19:00出発
  6日(日)/ 18:00出発
会場:
前橋中心商店街(中央通り、弁天通り)アーケード内の各所
出演:
Abe"M"ARIA(東京)/黒田育世(東京)/松田多香子(東京)/山賀ざくろ(前橋)
 
著者プロフィールや、近況など。

ウロー直美 (うろーなおみ)

1983年生まれ。群馬県在住。美学校出身。
現在は絵を描くかたわら、地元の韓国人パブで唯一の日本人として働く。
スリーサイズは上から90cm92cm108cm。
筆者初出演DVD[ボクといっしょに食べようよ、イーテぃン。]が(株)ケイネットワークより絶賛発売中!




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