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みやじけいこ「チルドレンズ・アート・ミュージアム 2005/カラダで感じる美術館」

石仏室でまずはストレッチ(中央:みやじけいこ) 「この作品のこのあたりが…」と力説中。(中央:みやじけいこ)

けはい の ありか(3回シリーズ/2回目)
TEXT 草木マリ

 思い出がひきだされるときって、なんでもないものだったりする。まったく関係のないようなモノゴトがスイッチになって、再生される。
 記憶をつつむ景色やことば、いろいろなものの粒が、思い出から思い出へ、つながってはまた、別の記憶へと向かう。
 そのルートが複雑で、確かなものであればある程、記憶もまた、深く鮮やかなものになるのかもしれない。
少なくとも、そうあればいいと、私は思う。

 その時感じた気持ちをいつか引き出す日のために、たくさんの目印をつけておく。
掌や足の裏、鼻の先や耳の奥に、持てるだけのものを持って未来へ送る。今は散らかったままの今日の断片ーにおい、陽射し、肌触り。温度、湿気、遠い音。誰かのことば、知らない人の肩のかたちーそういうものがずっと先で、いろんな気持ちを行き来したこの日の自分を思い出させてくれる。
 「カラダで感じる美術館」は、そんなささいな日常を、ちょっと心に引きとめるためのワークショップ。
その1をよむ

その2:一番短い魔法の言葉は、「名前を呼ぶ」ことだとおもった。


写真1/ゴーグルをはめて出発!(右:博物館実習の感じるチーム)

 このワークショップの始まりは、東洋館の石仏室。1日3回、各15人定員の名簿は毎回あっという間に満杯の盛況ぶり。床も壁も天井も石でできたこの部屋で、子供も大人も裸足になってごろりとからだを横たえる。外の暑い晩夏の空気が嘘みたいに、ここはひんやりとして清々しい。背中に硬い冷たい感覚を受けながら、ナビゲーターみやじの声のままに、ひとつひとつ、からだの力を抜いてゆく。さっきより、遠くの音が聞こえる。石と石の間を音は跳ね返り跳ね返りなかなか消えない。別の世界から現実を見ているような錯覚。
 夢見心地になったところで、このプログラムのめだま的アイテム、作家みやじ特製「すりガラス・ゴーグル」(写真1参照)を装着。見えるような見えないような、光の在処とぼんやりとした色だけをたよりに、石仏室からお隣の工芸館へ出発!
 15人の参加者は5人づつのチームにわかれ、「感じるチーム」の面々をリーダーに、汗ばむ手で前の人の肩をにぎり、すり足でみっつの部屋をめぐります。ゴーグルを着けたままめぐる先々で、それぞれの部屋に「名前」をつけてもらうことになります。
 余談ですが…、名前をつける、という行為はふしぎなものですね。自分の外側にあったものが、急に自分の世界のものになる。あらためて考えてみると、自分に名前のついた日のことが感慨深くおもわれます…。


そろりそろりと、探検のはじまり。

 さて、ひとつ目の部屋はこの館の設計者でもある染色作家、芹沢ケイ介の小さな部屋。床はノーマルなフローリングで窓はなく、すこし薄暗い印象。暑くも寒くもないへや。裸足であるくとぺたぺた音がして、つるつるすべすべ、なめらか。音のかえりは早いかんじ。ここの名前は「ぺたぺたの部屋」とか、「ぎゅうぎゅうの部屋」(部屋が狭いので参加者でけでぎゅうぎゅうでした)などなど。若い柔軟な脳みそからは、あっというまに名前がでてきます。さっきまで限られた視界でびくびくしてたのに、皮膚で感じることにもう夢中。触れることって、シンプルで有意義な行為だなあ、と実感。子供たちはおおはしゃぎです。



織部釉の床を感じているところ

 ここを出て、すぐ隣の版画家、棟方志功の部屋へはまたそろりそろり。ここは織部釉(おりべゆう)という陶のタイルを敷いた部屋。中央に落花生形の明かりとりの窓があって涼しい。音のかえりがないから、見えなくても広いのがわかる。実際、さっきの部屋の何倍もある大きな部屋。冷たい釉薬の肌触りが気持ちいい。30cm角のタイルの四角も触っていて楽しいし、みんな座り込んでひんやりを堪能。口々に新しい名前が飛び交って、みやじも「感じるチーム」もてんてこ舞い。ここは「冷たい部屋」「四角い部屋」「明るい部屋」といった名前がつきました。



みっつ目の部屋は木レンガ

 みっつ目は陶芸作家、バーナード・リーチの部屋。ここへたどり着くには短い階段を2回こえなくてはいけないので、みんなちょっと腰がひけてるかんじ。そのかわり、近くにいる仲間の存在が頼もしく、聞こえてくる声が愛しい。初めて出会った人たちなのに。
 ここの床は木レンガ。木を切り出して作られたレンガをはめ込んだ床は、歩くとかたかた、足の中で小さく動くふしぎな作り。足の裏が少し暖かく感じる。飽きのこない味のある床です。「ぽこぽこの部屋」「がたがたの部屋」「はずれそうな部屋」という名前がつきました。



「感じマップ」作成中

 ここを出ると、最後の難関、長い階段をのぼってゴーグル探検は終わり。2階、河井寛次郎の朝鮮床の部屋へたどり着きます。ぎゅむぎゅむと軋む床に腰をおろして、ゴーグルをはずして一息。久しぶりに視界の細かなデェテールと再開。
 ここでアイテムその2「感じマップ」が配られます。これはゴーグルと同じ形をした、東洋館〜工芸館の簡略地図になっていて、部屋のところに、今つけた名前を書き込めるようになっています。目隠し状態できたので、部屋の位置関係がわからない。ここに名前を書き込んでゴーグルにはめると、今まで目隠しだったゴーグルが、なんとみんなを導く地図になるよ!という魂胆です。



つぶやきながら探し物

 「感じマップ」に導かれ、もう一度みっつ目の部屋に戻ってみる。例の木レンガの部屋です。「へえー、こんな床だったんだ!」「うわっ、せまい」などなど、カラダで感じた部屋と目で見る部屋とのギャップを味わいつつ、次のプログラムへ。
 ここでやっと作品鑑賞。でもまずは発声練習から。発声練習といっても、複式呼吸であえいうえおあお、というアレではなくて、自分にしか聞こえない大きさ→隣の人には聞こえる大きさ→隣の隣の人には聞こえる大きさ、と小声の練習。これは探し物をするための呪文の唱え方。お財布が見当たらない時、さいふさいふ…って、つぶやきません?アレです。あのかんじ。
 何を探すのかというと、自分がつけたこの部屋の名前に、ぴったりくる作品。自分だけのこの部屋の名前をつぶやきながら、この部屋に展示されている作品をみてみたら、案外しっくりくる作品があるかも!だって、芹沢さんは、この作品、この作家の為にこの部屋をつくったんだから、部屋の雰囲気と作品が突拍子もない関係であるはずがないもの。
 ぶつぶつぶつぶつ、みんなが呪文を唱えながら部屋をうろうろ、展示ケースを覗いてる。ちょっと照れくさそうだったり、わくわくが顔にくっきり浮かんでたり。すぐにぴったりの作品は見つかったみたい。みんな誇らしげに紹介してくれる。自分のペットを自慢するみたいに。これは子供の付き添いで参加してくれたお父さんお母さんの方が、楽しんでもらえたみたい。


 この後はふたつめの棟方部屋にもどって、今度は「におい」のプログラム。
 …だけど今回はここまで!
 状況説明ばかりで、参加者・スタッフの生き生き感が伝えられないのが口惜しい…!ものたりない人はぜひとも、大原美術館へ足を運んで、工芸館を直に感じてみてほしいです。芹沢さんが何を思いながら、ひとつひとつの部屋を作っていったのか、想像しながら作品をみると、工芸館を何倍も楽しめますよ。ためしてみてください!
 では次回、こんどはどうなることやら、お楽しみに!


チルドレンズ・アート・ミュージアム 2005
みやじけいこ「カラダで感じる美術館」


大原美術館 工芸館・東洋館(岡山県)
2005年8月27日・28日
 
著者プロフィールや、近況など。

草木マリ(くさきまり)

1976年京都府生まれ。
1999年成安造形大学造形学部卒業。
京都芸術センターで1年間のアシスタントスタッフを経て、
現在、大阪成蹊大学芸術学部綜合芸術研究センター勤務。




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