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『象の夜』 砂入博史 広島市現代美術館
8月の象たちは
TEXT 友利 香



展覧会フライヤー
地下展示室に、象がいると聞いた。

ドアから覗いた時、象はこちらにお腹を向けて横たわっていた。
原寸大!
もし、こちらに背を向けていたら、私はきっと入室をためらったはず。
私を拒絶しているようだから。

背後には被爆建物の白い板。
その塀は、通り抜けそうで、通り抜けられない疎らな間隔。
越えられそうで、越えられない高さ。
その向こう側は、深い深い灰色だった。

象は鉄骨の籠になっている。
皮膚はないの?このカシャカシャした葉っぱが、皮なの?
ある意味、被爆者を想起させ生々しい。
内部にぎっしり詰めこまれた被爆樹木の枝や葉は、被爆者の集合体に見えてくる。
一枚一枚は、軽い木の葉。しかし、ずっしりとした肉感。
たちこめる枯れ葉の心地よい匂い。生きてるんだ!

「象は体験した記憶を遡り、生まれた場所に戻って来る」というのが本当ならば、眠っているこの場所は旅の末に辿り着いた記憶の原点?
あるいは、まだ旅の途中で、ここは自身が何か体験した場所なのか。

そばに、4つの足跡が残っている。
後ろ足は、枝をしっかりと踏みしめている。
この枝は、被爆の事実なのか、今私たちが越えて進むことのできない境界なのか、憎しみあう愚かな人間なのか…。

象と樹木を用いたこの表現は、風化していくヒロシマを、鑑賞者に多すぎるくらい語らせる。

今年は被爆60周年。
砂入博史は、1972年広島生まれ。ニューヨークで活躍する作家である。
18歳で渡米した彼は、原爆投下国というアメリカで、広島を意識させられることがあっただろうし、2004年9・11多発テロ以降、今度はテロ被害者としてのアメリカ・ニュヨ-クから広島を見つめたはず。
今回は制作のため、「忘れない※」をキーワードにインドに渡り、象の飼育体験までしたと言う。
彼は、カシャカシャした象の体を、きっと、深いシワの一本一本まで、丁寧に洗ってやったに違いない。
おそらく、生あるものへの愛情を持って。自身の記憶を遡りながら。
広島の象は、全身で生命を表現することで、彼の愛情に応えていた。
(「楽しいこともあったんだよ」眠る象の体からそう聴こえたから)

私たちがこれから生きる日々も、象の記憶へと蓄積されていく。

※西洋には「象は忘れない」という格言があり、「象は忘れない」というアガサ・クリスティのお話もあるんです(作家談)

『象の夜』 砂入博史
Hiroshi Sunairi  A Night of Elephants


広島市現代美術館(広島県)
2005年8月17日(水)−9月19日(月・祝)

砂入博史

年譜
1972   広島生まれ
1990   米国ユタ州、スノウカレッジに留学
1991   米国ワシントン州、ウェスタンワシントン大学編入
1991−
1992
  米国ニューヨーク州立大学トンプキンズコートランドカレッジ編入
1992−
1995
  米国ニューヨーク州立大学パーチェス校ビジュアルアート(現代美術)専攻、卒業
1995   ニューヨークシティに移り作家活動を始める
1996   ニューヨークでのコムデギャルソンでの販売、レーベルでの日本服飾輸出マネージャー、ユナイテッドバンブー等と仕事をする
2001   から現在に及び、作家活動の傍、ニューヨーク大学非常勤教授をつとめる

個展
2005   『象の夜』広島市現代美術館ミュージーアム・スタジオ個展、広島
2001   『仏陀』アンドリュークレップスギャラリー、ニューヨーク、米国
『仏陀』アートアンリミテッド、アートバゼル、スイス
2000   『アーリー・ヒロシ』エルエーギャラリー、フランクフルト、ドイツ
『ビックバンバン!(柔らかくて丸くて愛の様な)』ギャラリー・ワング、オスロー、ノルウェイ
1999   『嘘―ディセプション』アンドリュークレップスギャラリー、ニューヨーク、米国美術館グループ展(by:キュレーター)
2002   『セルフエクスポージュアー』クンスト アーキテクチャー・ジェシュデニス、アムステルダム、オランダ
2001   『ザ・アメリカンズ』by マークスレイデン、バービカンアートセンター、ロンドン
『クィアー・ビジュアリティー』by カールポープ、ストーラーセンター、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校、米国
2000   『グレーター・ニューヨーク』モマ/ピーエス1、ニューヨーク、米国
『目眩』by ジェラルドマット、ウーサラ・ブリックル・スティフタング、ドイツ
『目眩』by ジェラルドマット、ボラルベルゲ クンストベレイン、オーストリア
『欲望』by ピーターバイヤーマイヤー、ウーサラ・ブリックル・スティフタング、ドイツ
『欲望』by ピーターバイヤーマイヤー、ギャラリア・ダーテ・モダーナ、イタリア

グループ展
2005   『アトミカ』byオンブレッタアグロー、ランバートフリードギャラリー、ニューヨーク、米国
『バックトゥーザガーデン』イーポップ・メイヤーフォーピース、ルービーフォールズ、ニューヨーク、米国
2004   『ほら見てご覧、22人のドローイング作家』by 芦川ともこ、アバウトグラマーギャラリー、ニューヨーク、米国
『コネクト・ザ・ドッツ』by デイビッドデンピウォルフ、コロンビア大学、ニューヨーク、米国
2003   『デューブローインターナショナル』by ノーマンデューブロー、クレイヴィッツ・ウェイビーギャラリー、ニューヨーク、米国
『毎日遅刻』by ノアシェルダン、デュプロー、シカゴ、ニューヨーク、米国
2002   『必要以上に私の事』by デボラキャス、モメンタアートギャラリー、ブルックリン、ニューヨーク、米国
『ステートオブザギャラリー』アンドリュークレップスギャラリー、ニューヨーク、米国
2000   『Pieceを作る作家』by デイブミラー、アンドリュークレップスギャラリー
ギャラリー、ニューヨーク、米国
『コレクターのチョイス展』by グレッグアレン, エグジットアート・ギャラリー、ニューヨーク、米国
『燃料奉仕』by ケニーシャクター/ローブ、ケニーシャクターコンテンポラリーギャラリー, ニューヨーク、米国
『ブロンドとブラウニー』by ラファイエル ウォンウスラー、アクションズフォーラム ギャラリー、ミュンヘン、ドイツ
『夜の夢展』by ダニエルライヒ、パットハーンギャラリー、ニューヨーク、米国
『ハイファイブ』by パトリックシェドラー、ギャラリーシェドラー、チューリッヒ、スイス
1999   『麻薬』アメリカンファインアートギャラリー、ニューヨーク、米国
『紙制作』モダンアート インク、ロンドン、英国
『120人の作家』by マイクワイス、シックス@プリンスギャラリー、ニューヨーク、米国
『イエスかノー、又は判らないと、答えて』by リッキーアルベンダ、アンドリュークレップスギャラリー、ニューヨーク、米国
1997   『ギフトランド:消費』†プリンンテッドマター、ニューヨーク、米国
『イー プラルス ニヒリ』by 今村隆弘、アメリカンファインアートギャラリー、ニューヨーク、米国『だから何が起こるか判らないでしょ』by ケニーシャクター/ローブ、カルチュラ、ニューヨーク、米国
1996   『ロンパールーム』by ダニエルチャング、スレッドワクシングスペース、ニューヨーク、米国
『100枚の写真』by コリンデランド、アメリカンファインアートギャラリー、ニューヨーク、米国奨学金、レジデンシー2000:ピーエス1スタジオグラント

著者プロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

「彫刻の街」山口県宇部市在住。子供を通じて児童心理と絵画との関係に興味を持つ。
お気に入り作品は、知れば知るほど、たくさん・・・になりました。
11月19日から開催の「西雅秋展」(神奈川近代・葉山館)、行きたいなあ。
現在、アートを広めようとボランティア活動中。
宇部の彫刻

■国民文化祭・やまぐち2006彫刻展、出品作家発表!
2年続けて宇部へどーぞ!


 


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