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前衛の女性 1950−1975
壁一面を使った芥川(間所)紗織の作品


会場風景
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そう、私は女であることを誇りに思う
TEXT 藤田千彩

「フェミニズム」という言葉がある。
詳しくはよく分からないし、私は今まで30数年生きてきたが、特に「女性」ということを意識したことがない。
だが、なにかそそられるものがあって、宇都宮へ足を運んだ。
栃木県立美術館で行われている「前衛の女性 1950−1975」展を見に行くためである。

私が“今まで自分で見聞きした現代美術史”は、東京都現代美術館の常設展で見られるような、戦後の美術史である。
戦後まもなく、という時代の作品には黒や灰色を用いた喪失感のあるものが多い。
しかし、そういったものと同時代に作られた原色をあでやかに用いた岡本太郎の作品を、初めて見たとき(たしか5、6年前)は「すげっ!」というかなりの衝撃を受けたことを覚えている。

しかし、「前衛の女性 1950−1975」は、そんな岡本太郎の作品さえ、くつがえすような作品が並ぶ展覧会だった。
入ってすぐ、のびのびと表現された桂ゆきの絵画作品が並び、私の目的の一つでもあった芥川(間所)紗織の作品があった。
彼女の作品は、線といい、色といい、技法といい、同時代の誰よりも面白く、すばらしく、変わっている。
染色からスタートした制作手法は、油絵でも独特のタッチを生み出した。
展示されていたのは、そういった芥川(間所)紗織の全盛期を眺めることができた。
また、彼女が多く取り組んだ「神話」を主題とした作品群であった。
その力強さ、迫り来る画面、ああ、本当に戦後間もなく描いた作品なの?と思うほど、前向きに見える。
体が震えてしまって、足が動かないほどだ。

1950年代も半ばになると、関西では「具体」、九州では「九州派」という活動が生まれる。

「具体」は吉原治良を中心に、「人のまねではなく、今まで作ったことのないものを作る」ことをモットーにした団体である。
メンバーは、主催でもあり○をでっぷり大きく描いた吉原治良、足で絵の具をこねた作品で知られる白髪一雄、ふすまを何枚も破るパフォーマンスの村上三郎らが挙げられよう。
女性の作家も在籍し、電気服やそれを平面(絵画)にした田中敦子、缶やプラスティックなど様々な素材を用いた山崎つる子などがいた。
同じ時代に生まれてたら圧倒されるだろうな、と思うくらい、パワフルな表現とその作品の数。口があんぐりであった。

「九州派」はもっとパワフルで、以前、田中幸人の本に「デパートで働く田部光子らメンバーは、お盆の時期に九州から夜行電車で東京に来て、展覧会を一週間して帰っていく」というくだりを読んで、そのパワーを鮮明に記憶している。
田部さんの作品も度肝を抜くような、色、塗りというより固まり、思い切り。すごい、すごい。

いわゆる美術史では、この50年代後半から60年代は、“前衛的”であるとされている。
同じ時代でも、ハイレッドセンターが“お上品”に見えてしまう。
具体や九州派の“男性陣”も、おとなしく見えてしまう。
それほどに、この時代の女性たちのパワーには圧倒されてしまうものがある。

女性だから?取り上げられることは少ない。
女性だから?埋もれてしまっている気がする。
女性だから?表現することさえ、男性より一歩下がっていなきゃいけなかったのか。

1960年代になると、「フルクサス」が世界的に猛威を振るう。

つい「あっ」と声が出る。
私の地元、岡山出身の塩見允枝子の作品があったからだ。
そして、伝説(?)になっている林三従(はやし・みより)も。
今まで何度か目にしたことがあるけれど、こういう流れで見ると改めて、センセーショナルに感じる。
塩見も林も、インスタレーションや写真といった手法で、手や頭を使った理知的な作品は魅力であった。

もう、いっぱいいっぱい、だった。
来てよかった、と思った。

展示されている女性作家たちの多くは、男性作家と結婚しているが、そのことはあえてインフォメーションされていない。
彼女たちを、「一人の作家」として、私は見ることが出来た。
また、戦後から私が生まれる頃まで(つまり、私の知らない時代)の女性作家が、こんなに活発で激しいパワーを持って活躍していたことを知ることができてうれしかったし、うらやましかった。
そこから私の知っている時代につながっていく、ということが確認できたことはとても感動だった。

東京へ戻り、改めて私は“今まで自分で見聞きした現代美術史”を辿り直す。
そこにはやはり男性作家ばかりが羅列されている。
活動の裏には多くの女性作家の存在があったというのに。
彼女たちが「前衛」を作り出し、「美術史」を陰で支えたに違いない。
私の中で新しく“現代美術史”を立て直すとき、彼女たちは欠かせない作家・作品となった。
なぜなら、彼女たちがいたから私たちがこの時代を生きている、ということを、この展覧会で教わったからである。

前衛の女性 1950−1975

栃木県立美術館(栃木県宇都宮市)
2005年7月24日(日)〜9月11日(日)

著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がける。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」などでアートに関する文章を執筆中。
http://chisai-web.hp.infoseek.co.jp/


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