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“pin-holes project in Yamaguchi” 針穴図像 −光の間−
 

  “pin-holes project in Yamaguchi” 針穴図像 ー光の間ー 展示風景

YCAMの自動ドアの前に立つ。中からす〜っと、いつもとは違う風。
佐藤時啓の光微粒子…私はこれを待っていたのかもしれない。

 一階フロアに正八角形のブースが3個。内2個の出入り口は接続している。
単独の展示ブースの入り口をくぐり抜けると、《一の坂川※1》。
市街地を流れるこの川は京都の鴨川に見立てられ、今なおその情緒が残る。
紛れもない山口…。今ある暮しの根底感が漂っている。
 接続された2個のブースの内、一つには、《常栄寺・雪舟庭※2》。
出入り口でその八角形は半割されている。寺院内部のクラクラするくらい整然とした畳と、冬の枯れた庭の対比が見事で、このスペースでは思わず「お行儀座り」する。
ここで歴史的なものを見せたかと思うと、隣は《西門前商店街の端※3》しかもアーケード商店通りの4面はガラス隔てた戸外に設置。ふいを突かれる。
これにより商店街通りを抜けていく太い線と、他方の路地裏商店の軒並みとの対比が深まる。
 
 YCAMはオープン以来、第一線で話題の映像、ダンス、演劇などを見せている。
まだ日が浅いためか、企画が上等過ぎなのか、館内に地元住民の暮し圏という雰囲気がない。
地元臭の良し悪しを問題にしているのではない。ただ、YCAMが市民に近づいたことは確かであろう。
「ここは、山口市の情報芸術センターだ」と。
 気になるのは、「ワンダリングカメラin山口」の作品3点、撮影当日のビデオ2点、韓国での写真2点が
スタッフ以外通ることない通路に展示してある。とても、良い作品である。この作品群も佐藤時啓+ルチーダフレンズ(市民ボランティア)を語るに外せない。「展示はこちら」と、とても小さい立看板はあるのだが、悲しいほど不自然で、人気(ひとけ)のない、ひっそりとした展示場所。ワンダリングプロジェクトの意義や、ルチーダフレンズたちが佐藤時啓からもらったアート心をこれからどう生かしていくか、市民にどう仕掛けていくか、彼らに期待しているならば、相応の展示場所を与えるべきである。

 さて、最初出会った佐藤時啓は《3・4・5角・宇部のカメラ》、彫刻作品だった。
鉄の要塞風のドーム型で外壁は苔(モスインネット)。
内壁の肌を、なんと、湖水でゆらめく光と芝生の光の対比映像で仕上げた。
 広島市・旧日銀、最上階での作品。天井に浮かんだ白い飛行機に市内ビル街を映した。
2度行った。2回目に見た時はガスが抜けているのか、わずかだが、飛行機が下がっていた。
この除々に落ちていく飛行機は国籍・機種が特定されていないだけに、深い歴史、今ある繁栄のこと…、(スクリーンの“白”はあたり前とはいえ)私が最も好む色、“白”という色が持つの意味まで考えさせられた。
 南有馬町(長崎)漁協旧漁船修理小屋での《南有馬のカメラ》。ここでは、水平に置かれた舟形の板と垂直に下がったスクリーンに“生活の糧としての海、生活の場としての海”を映し出した。そして今回の山口…。
どこに行っても、光の束ひとつで、その地全体を、さりげに見せる

日記にはこう書いた。(実はご本人にも言ってしまった)
「佐藤時啓、あんたは開拓者だ」

※ 1,2,3 いずれも、佐藤時啓新作の《360°カメラ(同時に360°撮影できるようにカメラを配置した複数によるカメラ)》で撮影。従って、フィルムの配列・数(縦3枚周囲八枚)に応じた展示になっている。
 

TEXT 友利香

“pin-holes project in Yamaguchi” 針穴図像 −光の間−
佐藤時啓+ルチーダフレンズ

山口情報芸術センター
2004年2月11日(金)〜3月13日(日)
※火曜休館(祝日の場合は翌日)
10:00〜20:00

サイトシ−イングバスカメラプロジェクト

 3月12日(土)にサイトシ−イングバスカメラが銀座を走ります。
 佐藤時啓がこれまで実施してきたワンダリングカメラプロジェクトは、移動することのできるカメラオブスクラでしたが、これは新たな試みで、映像を体験しながら動くことのできる可動式のカメラオブスクラです。(サイトシ−イングバスカメラHPより。)

著者プロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

「彫刻の街」山口県宇部市在住。子供を通じて児童心理と絵画との関係に興味を持つ。
真の開眼は若林奮。好きな作家は柳原義達から会田誠と幅広い。
現在、アートを広めようとボランティア活動中。
宇部の彫刻

 

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