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美術散歩


時代を先取りか、面白い「中之条ビエンナーレ」

TEXT 菅原義之


 中之条ビエンナーレ2013、パスポート

 中村岳の作品

  「中之条ビエンナーレ」は、以前から気になっていたが、今回念願がかない四万温泉泊まり1泊2日の旅が実現した。見終わってみるとそこにはいろいろな発見があった。大事なことが浮き彫りになったと言っていいかもしれない。「中之条」は「越後妻有トリエンナーレ」とは別な意味で特徴があり、個性を思う存分発揮していることが分かった。

  ここは、作品の設置されている地域が「中之条伊勢町エリア」を中心に6か所に及ぶが、2日間車で走り回り全作品を見ることができた。見終わった時には4人の仲間と一斉に歓声を挙げ達成感に浸った。また、作品が分かりやすく面白かったことも楽しさに拍車をかけた。大勢の人が見に来ているのはこんなところにあったのかもしれない。家族連れ、子供連れも目立った。この種の展示には最近では映像作品が多くみられるが、ここではほとんどなかった。短時間で多くの作品を見ようとすると時間のかかる映像作品ってなじまない。それが意識的に取り込まれていたのか。見やすかった。パスポート方式は「越後妻有」と同様だが、ゴム印に展示会場の特色が盛り込まれていて一回一回の押印を楽しんだ。全部回ったパスポートを「つむじ」にある係へ提示すると記念品が贈呈され、より励みになったことも付け加えておきたい。

 作品については、全般的にアートのレベルはしっかり保ちながら、中には遊び心を取り入れたり、観客参加型を取り込んだり、面白い発想で制作したり、心に訴える地元のエピソードを盛り込んだり、ダルマや津軽三味線の激しいメロディーを取り入れたり、などなど面白い作品があちこちに見られた。作品と一般観客との距離が縮まっていることを実感した。「遊び心」をしっかり取り入れているところが凄い。「アート」と「遊びの文化」とは近いところにあると思うからでもあるが、これこそ運営に携わる人たちのアートに対する柔軟な姿勢の表れではないか。分かりにくいアートに対する既成概念を壊そうとしているようにすら思えた。時代を先取りしているのかもしれない。見事。

 面白かったものはいくつもあるが、一つは、「自然を上手に取り込んだ作品」と言っていいかもしれない。中村岳は、旧伝書鳩の飼育小屋を中心に周囲を白一色の遊歩道やその他縦横に走る得体の知れない白塗りの木の設置が自然の中に見事に映えていた。また、斉藤寛之の作品も同様で、かつての釣り堀池の周囲一面を何も手をかけない木を立て掛け取り巻いている。人工物が自然の池を囲む。両者のバランスが面白く感じられた。
 「観客参加型の作品」も目立った。中之条にある旧コンビニ内に、上野昌男の作品《記号の家》が。あらかじめ用意されたカッターナイフで何色かのフェルト生地を観客が自分で好きなように切り抜き、自作を周囲の壁や床に両面テープで貼りこむもの。多くの大人や子供たちが家族で楽しんでいた。皆面白がっているのを見てこれこそアートの原点に触れたような気がした。また、別会場では、松枝美奈子の《赤の庵》は、一種の荷札にそれぞれ自分の願いごとを書き赤い糸でできた作品に縛り付けるもの。願いが叶うようしきりに多くの人たちが願いごとを記し縛り付けていた。もちろん私自身も参加した。
 「遊び心を刺激する作品」もあった。作品番号1番のキュンチョメのプリクラである。狭い会場にあらかじめ用意された編み笠などが置かれていて、自由に被って写真を撮るなどである。何人もの人が撮っていた。また、水道橋サクセス(広瀬陽+木村祐太+金城敏樹+小宮匠)の作品。素っ裸の男性3〜4人が水の中を泳いでいる映像。時々仰向けになる。ややぼけて見せるところがミソ。見ている人たちの笑いを誘った。その他、小作品だがスイッチを入れると男性の“一物”に豆電球が点灯する。これも笑いを誘う。女性もスイッチ・オンで面白がっていた。ちょっとしたアイディアかもしれない。
 「逆転の発想とか、面白い発想に感心させられた作品」もあった。この種の作品って最近多く見られる。面白い発想である。正親優哉《frog flour》は、大きな蛙が何匹も室内に整然と並び頭を床にすりつけるように垂れている。その向こうには4枚の立派な木製の戸があり閉まっている。戸の向こうには何が控えているのか想像をかき立てる。しかもカエルである。無性に面白かった。大野公士の作品。白い1台の乗用車を真っ二つに分解しそれぞれを地面に立てている。まるで2台の車が地面に刺さったようにさえ見える。一瞬錯覚する。周りには車の内臓ともいえるエンジンなどが置かれている。自然の中に現代の最先端の人工物が不自然な形で置かれている光景。見た瞬間驚きである。1台を2台に見せるトリック表現も面白かった。戸島大輔の本の作品、棚の上に白い本が置かれている。なぜ本が?目を左に移すと“あれっ!”本が上下に割れている。“えっ!”その隣には本の素材となった白い粉が山と積まれている。まるで種明しのよう。本に見せてそうではない、本まがいの立体作品である。これもトリック手法の活用かもしれない。発想の面白さに感心。山口貴子の作品は、和室に吊るす四角い電気の傘を床に横置きにして本来の使い方とは全く異なる用い方で展示。しかもどれもこれも不必要に点灯させる。部屋いっぱいに並べると不思議な光景が出現する。見事。また、この傘1〜2点を戸棚の中に置きこれも点灯させる。外部は暗くまるで逆。逆転の発想か。こんな作品って無性に面白い。その他、飯沢康輔の作品2点。1点は、家の屋根にいくつもの穴をあけ光を取り込む。その下には透明なビニールシートが吊るされその中のたわみに青い水が。下から見るとその水を通して天井の穴から光が射し込む。まるで星の瞬く晴天の夜空だ。見事。もう1点は室内の屋根が丸くすっぽりと抜けその下に大きな木が枝ごと真っ逆さまに吊るされている。木の下は床が抜け小さな水たまりが。木が水を求めて根を張っているかのよう。これも逆転の発想か、面白い。

 まだまだ紹介したい作品は何点もあった。ここでは地元の人との交流が活発に行われているようで、その人たちの意見が取り入れられているのかもしれない。結果として分かりやすい、面白い作品が多かった。このような意味で作品と一般の人との距離、隔たりがかなり縮まったように思えた。ビエンナーレのあるべき姿を見たようでもあった。次回を楽しみにしている。今後のますますの発展を期したいものである。


 斎藤寛之の作品

 上野昌男の作品

 正親優哉の作品

 大野公士の作品

 山口貴子の作品

 飯沢康輔の作品
 

著者プロフィールや、近況など。

菅原義之

1934年生、生命保険会社退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室MOMASコレクション作品ガイド)を行う。

ウエブサイト アートの落書き帳

・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。

・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。


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