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日本におけるドイツ年」で観たドイツ現代美術から

TEXT 塩入敏治

今年は「日本におけるドイツ年」ということでドイツを代表する現代美術の注目すべき展覧会がいくつも続いた。
北方ルネッサンスの絵画から現代美術まで、ドイツ美術が大好きな僕にとっては嬉しい一年であった。
当然、関連する美術展を含め、だいたいの展覧会を観て廻った。
東京藝大のROSA展BankART1929におけるグローバル・プレイヤーズ展など、日独交換の美術展などにもでかけて同時代のアートからも多くの共感を得た。
しかし何といってもポルケ、バルケンホール、ベッヒャ―、そしてリヒター展だ。
それぞれ彫刻、写真、絵画と表現様式こそ異なれ、対象を見つめる眼差しに美術の文脈に根ざした確かな時代の感性を感じさせるものがあった。
展覧会の感想はそのつどレビューに採りあげ、私自身のメルマガで配信してきた。
ここでは特にその4つの展覧会レビューをまとめて紹介し、もう一度ドイツ現代美術を振りかえってみたい。




  ジグマー・ポルケ@上野の森美術館

キーファーやリヒターと並ぶドイツの著名な現代アーティストでありながら、彼等ほどにまとまった展覧会を観る機会は殆どなかった。その意味でドイツ現代アートの別側面を知るにはまたとない機会。なかでも70年から90年にかけて描かれた、プリント布地にアクリル絵具で描いた物語や神話的モチーフの作品に惹かれた。ドットをくり抜いた彩画はプリント柄と共振してポップな感じだが、モチーフの深みとは均衡を欠いて落ち着かない気分にさせる不思議な作品だ。



 
  シュテファン・バルケンホール@東京オペラシティーアートギャラリー

バルケンホールもまた初めて観る貴重な展覧会。「日本におけるドイツ年」に関連した企画で、そのありがたさを実感する内容といえる。ひとりの男の立姿に普段と変わらない、ありのままの姿を具象的に表現した木彫であることから、ミニマル・アートの形容が気になるが、さくさくと彫った鑿跡に円空を連想する無心の境地こそ気になる。絵画的な木彫りレリーフもさくさく感が何とも言えず、写実的描写にも血流を感じてしまう。極めつきは「ピエタ」。その粗野な塊としてのイメージがいつまでも心に響く。



 
  Bernt & Hilla Becher@東京国立近代美術館

「ドイツ写真の現代」展で観た。砂利工場シリーズにみる建物の風変わりな造形性に、産業構築物としての機能性だけでは説明できない作品としての魅力を存分に感じた。給水塔、ガスタンク、冷却塔など、巨大な構築物がそびえ建つ姿をとらえた写真からは、時間をまき戻したような懐かしさを感じた。現代では過去の遺物となりつつあるアナログの世界がそこにはあるようだった。
明るく、フラットなイメージの広がりは、事物の造形性ばかりがきわだって見え、アートとしての写真を満喫できた。



 
  ゲルハルト・リヒター@川村記念美術館

ドイツで行なわれた大回顧展を母体にした本展は、選りすぐれた作品から構成されて、リヒターの芸術を知るまたとない機会かもしれない。フォトペインティングやアブストラクトペインティングの他にも、ミラーやガラスの作品、それにグレイペインティングなどの最近のものまで、絵画の文脈にねざした気迫の作品に驚くばかり。特に、グレイに浮かぶ光源のような作品からは、色彩以前の絵画の魅力を存分に楽しませてくれる。いつになっても目が離せない。


*このページの画像は全てイメージです。
 
   
ジグマー・ポルケ展/不思議の国のアリス
上野の森美術館
2005年10月1日〜30日


シュテファン・バルケンホール展/木の彫刻とレリーフ
東京オペラシティアートギャラリー
2005年10月15日〜12月25日


ドイツ写真の現代―かわりゆく「現実」と向いあうために
東京都国立近代美術館
2005年10月25日〜12月18日


ゲルハルト・リヒター展
川村記念美術館
2005年11月3日〜2006年1月22日

著者プロフィールや、近況など。

塩入敏治(しおいりとしはる)

現代美術コレクター(コレクター歴25年)
独立キュレーター(キュレーション多数)
GalleryReviewの発行
現代アート大好き人間


 


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