八嶋有司個展│formless works展示風景
多様なスタイルでのアート・プロジェクトを展開するN-mark。名古屋を拠点に活動する彼ら(筆者含む)が約10年ぶりにオープンさせたギャラリースペース「N-MARK B1」。そのオープニングとして八嶋有司の個展「formless works」が開催された。
ギャラリーのある地下へ続く薄暗い階段を降りていくと、ホワイトキューブの空間が怪しいピンク色に照らされている。空間の奥に、最も存在感強く鎮座しているネオン管による作品のためだ。その形は店頭にあるサインのように、何かを伝えるもの(例えば店名など)ではなく、単なる伸びやかな波形と、くるくると円を描くような曲線である。
その傍らの床の上には、アクリルをカットしてできた、同じような形の作品が置かれている。しかし、よく見てみるとその中には「あ」という文字やアイドルの名前などを見つけることができる。
八嶋が作品として提示している形は、文房具店や書店などの筆記具コーナーに置かれている「試し書き」から抽出したものである。不特定多数の人々が、何の執着もなく、ただペンの書き味を試すだけのために記した痕跡。それらを八嶋は作品としてのプランを思いつく数年前から、コツコツと収集していたのである。誰もがそこでペンの書き味を試したことがあるだろう。しかし、それを大事に持ち帰る人は皆無である。そこに書き捨てられた線には意味や価値はない。しかし八嶋は、滑らかに紙の上を滑るペンの軌跡、くるくると連続する円や、伸びやかな波形に純粋な形の面白さを見出す。
無意味、無価値なものに、意味、価値を与えるというのは、現代美術の原初的なメソッドのひとつである。八嶋もネオン管の技術やアクリルを切るレーザーカッターなどといった高度なテクニックを要し、収集した「試し書き」をアートへと昇華させている。
無数に収集された「試し書き」、そこに記された多種多様な線の集積。そこから、どうやって、特別な線を選んでいるのか?最初に湧く疑問である。しかし、八嶋は、ネオンやアクリルで作品化する線を選択するのに基準はないと言う。それは無作為に選んでいるというのではなく、本来ならば全てを作品化していいのだという。(物理的な問題でそうはしていないが)確かに、もともと、意味や価値をもっていない、ただの「形」を何らかの基準をあてはめて選ぶというのはナンセンスなのかもしれない。
八嶋はこれまで、自身の部屋をシリコンゴムで型取ることで、公私の境界線を出現させるインスタレーション作品や、会話における間投詞だけを繋ぎあわせた映像作品などで、不可視なものを可視化することをテーマにしてきた。「formless works」も「試し書き」という頓着のない、過ぎ去る「日常/見えないもの」を気づき「アート/見えるもの」として立ち表させたといえる。