topreviews[「樹と言葉展」/高知]
「樹と言葉展」


自分の中にある樹のイメージを探す旅
TEXT 姫本剛史


高知県立牧野植物園「樹と言葉展」
高知県立牧野植物園は、高知が生んだ日本の植物分類学の父、牧野富太郎博士の業績にちなんで造られた植物園です。
植物園は6万平方メートルあり、広大な敷地内で四季折々の木々や花々が楽しめます。
施設内にある企画展示室は、木造の10m四方の小ぶりな2つの会場で構成され、木の温もりが感じる静かな温かい空間となっています。
これまで樹に関する展覧会といって私が思いつくのは、木製製品など樹そのものを様々な形で見せる展示など。
しかし本展覧会は、言葉が主役です。
樹を直接見ずとも、言葉を通じて樹のイメージが強く思い浮かぶ展覧会でした。

第1会場のテーマは、‘樹と出会う言葉’
入り口に書かれている「言葉は樹の宇宙を知る一滴である」という言葉通り、古今東西の本から樹に関する文章が集められて展示されています。
一編の文章は一冊の開かれた本に書かれ、高知杉で作られた机の上に並べられて、手に取らずとも眺めるようにゆったりと読むことができます。
徒然草の吉田兼好、宮沢賢治、トルストイ、のような文豪から、現代の作家である、いしいしんじ、大貫妙子、細野晴臣さんら30人ほどの文章が引用されています。


撮影:高知県立牧野植物園

これらの言葉たちを見ていると、古代から現代まで一貫して人類は木を愛し、木と共に暮らしてきたことを思い出させます。
シンプルな文章の一つ一つは、人間の樹に対する愛情にあふれ、樹の存在がとてもいとおしく感じることができました。
「木は土地を離れ、細かく切り刻まれたとしても、木であることをやめない。逆にまんべんなくちらばって、僕たちが生きているこの世界を、柱や横木のように柔軟に支える (いしいしんじ「家の中の木」から抜粋)」

第2会場のテーマは、‘樹のものがたりを旅する’
文筆家の松浦弥太郎さんによる物語と、版画家の松林誠さんによるイラストが部屋の4面の壁にゆったり、大きく書かれ、それを読むことで樹の物語を旅していきます。
物語の内容は、樹になりたい少年と人間の少年になりたい樹の魂が入れ替わり、お互いの存在を見つめなおしていくお話しです。
第1会場では言葉を通じて身近な樹の存在を見つめなおしましたが、この会場では物語を通じて樹とそれをとりまく環境のイメージが湧き、自分の中で新たな物語が想像されます。
そんな自分の中から生まれた物語を、実際に見える形にする仕組みもこの展示会場にはあります。
展示室の中には、物語に囲まれるように小さな木造小屋が建てられています。
2畳ほどの小屋はオレンジや緑、ピンクにペンキが塗られとても可愛らしく、中に入ることもできます。


撮影:高知県立牧野植物園

室内には、次のような松浦さんのメッセージが書かれています。
「みみを手でふさいでみて下さい。目を手でふさいでみて下さい。きこえてくる言葉、見えてくる絵を書いてPOSTに入れて下さい。」
メッセージの脇には、わら半紙とペンが置かれ、来場者が自由に書いた言葉や絵はPOSTに入れて、あとで小屋の室内に貼られています。
多くの人々の心の中から生まれた樹のイメージが形となって表され、それを見ることでさらにイメージが湧き、イメージの森ができていくような感覚を覚えました。
人にとって樹はとても大事な存在、それは当然分かっていることですが、それを言葉にすることでそのことをよりいっそう強く思い出します。

展示会場を出ると冬の空の下、葉の散った寒そうな木々が園内に林立していますが、樹として一まとめに見るのでなく、一本一本が個々の人間であるかのように違って見えてくる、そのように見てしまう自分がいました。


「樹と言葉展」
2010年10月23日〜2011年2月13日

高知県立牧野植物園(高知県高知市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

姫本剛史(ひめもとたけし)

1981年神奈川県横浜市出身 製薬メーカー営業企画
休日は全国の現代アートや、コンテンポラリーダンス、演劇などを鑑賞しに飛び回っています。
現代アートやそれをとりまく人々と触れ合うことはとても楽しく、また、自分の仕事にもいい刺激になります。
現在は、愛媛県松山市に在住。
四国のアートの魅力もお伝えしていきたいと思います。





topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.