アーティストの活動はなにも展示だけではないということ
TEXT 藤田千彩
PEELERの過去記事で、私は「ワークショップやイベントなどの展覧会以外についての意見や見解、記録はあまり残されていないのではないか、と気付いた。」と書いた。
そのことを考えるきっかけとなったのは、アーティスト大巻伸嗣の活動を知ってからであった。
そして今回、彼のワークショップに参加したレポートを残しておく。
ワークショップが開かれた街、「柏の葉キャンパス」駅は、東京・秋葉原から出ているつくばエクスプレスから20分ほどの町である。
つくばエクスプレス自体、2005年に開通した新しい路線であり、この「柏の葉キャンパス」駅や周辺は現在進行形で整備が進んでいる。
近くに東京大学や千葉大学の研究施設があるものの、もともと田園風景が広がるのどかな郊外を想像するといいだろう。
駅前にはタワーマンションが建てられ、その住民は都心に仕事場を持つ人が多い。
いわば新興住宅地、ベッドタウンとして生まれたようにも見えるが、もともとの地の人もいる。
説明する大巻伸嗣
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ワークショップはアートに限らないコンテンツで開かれており、そのための施設「柏の葉アーバンデザインセンター」略して「UDCK」が駅前にある。
UDCKとは、Urban Design Center Kashiwa-no-haの略、だという。
普段からこのスペースでは、住民向けに交流や学び、遊びなどをキーワードにした、かつ、アートに限らないさまざまなワークショップが開かれている。
新しく柏の葉に住んでいる人、地元の人が混在して参加し、交流の場となっているようだ。
今回開かれた大巻伸嗣によるワークショップは、近隣にあるロッククライミング施設に取り付ける「ホールド」(登る際につかむもの)の型として、持ち寄った物や手を石膏で型どりするというもの。
親子で参加し、子どもが小さいときにつかったものを型にとる。
参加者の話を聞いてみると、ロッククライミングや石膏に関することは初めて、という人たちばかりだった。
講師である大巻から、ワークショップの流れについて話を聞いたのち、いざ実践。
1.粘土の粉のような「立体型取り材」を水と混ぜる。
2.溶けあった「立体型取り材」に、手(型をとる元のもの)を入れる。
今回は「親子がつないだ手」を型にするため、手をつないでいる。
3.「立体型取り材」を流し込む。
4.流し込んだ「立体型取り材」の中へ、手(型をとる元のもの)を入れてしばらく待つ。
5.5〜10分で「立体型取り材」は固まるので、手を抜く。
6.抜くとこんなかんじ。ちゃんと型が取れたかな?
7.「石膏」を流し込む。
8.日差しのもとで、「石膏」が固まるまでしばらく待つ。
9.固まったかな?
10.「石膏」が固まったら、木箱を解体する。
11.色がついている部分=「立体型取り材」をはがす。
羊羹やゼリーのような固さなので、手でもはがれる。
12.白い部分=「石膏」を取りだす。
13.はい、できあがり。
※画像協力=かりんちゃんとママと大巻伸嗣
大巻の作品や展覧会“だけ”を見ていると、こんな石膏での制作作業は想像しがたい。
確かに思い出してみると、大巻が瀬戸内国際芸術祭で高松港で見せた作品《Liminal Air-core-》は立体だった・・・。
参加者にとっても、アーティストと直接触れ合う初めての場だったに違いない。
また、こうして出来上がった「ホールド」をつかみたいために、ロッククライミングを体験するかもしれない。
ものづくりを通して、そのプロセスを知り、アーティストと参加者、あるいは参加者同士の交流が生まれ、自分の分身のような「ホールド」が生まれたこと。
参加者の誰もが「面白い」と発していたこのワークショップ=「つくる」という場は、成功したと言えるだろう。
そしてアーティストにとっても、ワークショップはひとつの活動なのではないだろうかと再認識した。 |