新春を迎えた1月10日。
秋吉国際芸術村で、篠原有司男 《ボクシング・ペインティング》の制作パフォーマンスを見ることができた。

会場には蛍光オレンジの壁が用意され、その前では観客の誰もが押さえられない気持ちで、彼の登場を待っている。蛍光オレンジとは、いかにもアメリカっぽい。
この日の篠原は、絵の具に墨を使った。
墨をグローブにたっぷり浸し、1.8m×3.5mの壁を殴りつけていく。
時間にして3分間位。(正確には測っていない)
床のバケツの中の墨がストレ−トに叩きつけられ、大きな音と共に押され、飛び散り、垂れていく。
ボクシング・ペインティングは、偶然性に頼る暴力的な行為に見えるが、冷静さ・理知に裏づけされているものであることは一目瞭然。
瞬時のエネルギーの形は計算され尽くされたような美しさで、どんどん現れていく。
これは天性×経験に基づく、篠原マジックなのだ。
あっという間に出来上がった戦いの跡形は、屏風絵のようだった。
ボクシング・ペインティングの後、彼はロバート・ラウシェンバーグの《コカコーラ・プラン》を、トークを交えて手品のように組み立てていった。
それは、いかにも大量生産で乱造された組み立てキットを、ホームセンターから買って来て、
「さあ、組み立てるぞ!」と言った気楽なノリ、あるいは、工場でベルトコンベアの作業でもしているかのノリである。
彼はこれをイミテーションアートと呼んでいるが、ラウシェンバーグの作品が本来持っている意味とは違った目的で作られ、結果的には大衆性・ジャンク性などの点で、イミテーションが元祖家元のレベルを超えている。この皮肉な結果ににんまりしてしまう。

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現在の展示風景《ボクシング・ペインティング》

現在の展示風景《コカ・コーラ・プラン》 |
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数日後、改めて芸術村のロビーに展示された作品を見た。
篠原のエネルギーと観客の感奮、篠原がやって来た日の会場全ての興奮はまだ鎮まっていない。
《ボクシング・ペインティング》は建物の大理石を熱するようなマグマの熱を持っている。黒の熱の塊である。
ふと、墨を浴びながら壁を殴りつける篠原の姿が禅問答のように思えてきた。
篠原は「僕は、殴ってるそこだけを見てる。こうしたらこうなってーなど、考えない。
めちゃくちゃ速くして(殴りつけて)、自分を超えるのよ。」と話していたが。
《コカコーラ・プラン》は、翼をパラパラしながら「してやったり!」と笑っているようで、再び愉快・痛快・爽快気分。
ギュウチャンは今頃ニューヨークに向かって、飛んでる頃かな。 |