topreviews[現代工芸への視点―装飾の力/東京]
現代工芸への視点―装飾の力
工芸館は青田も買う
TEXT 藤田千彩

ここ数年、東京国立近代美術館工芸館で年末から年始にかけて開かれる展覧会が面白いので、期待している。
なぜなら工芸と美術のジャンルを横断していたり、若手作家を紹介するという目的のものだから、知らない不思議な立体物を見ることができるからだ。
今年の展覧会「現代工芸への視点―工芸の力」も、また私を知らない世界に導いてくれた展示であった。

 

a) 植木寛子《人魚》 2003年

 

まず最初の部屋。
植木寛子(1978年生まれ)、植葉香澄(1978年生まれ)、染谷聡(1983年生まれ)、桝本佳子(1982年生まれ)、と私より若い作家が並んでいる。
彼らの年齢だけでなく感性も若いのか、作品の形にショックを受ける。
植木の《人魚》(画像a)は、ハイヒールの形にも見えるガラスのオブジェだ。
現代美術の立体作家(彫刻家)がつくらない形、かといって実用的なものでもなさそうだ。
とっさに「玄関にでも置いておく?」と思ってしまった私の横で、一緒に行った友達は「どうしてこうなっちゃうの」と笑いころげている。
作品を見て笑う、ということはそうそう体験できない行為だ。
きれい、美しい、と思う脳みそとは違う部分が反応してしまったに違いない。
ガラスに使える色(絵具)は進化しないのだろう、小さい頃教会で見たステンドガラスの色みにに似ていた。
 
b)  青木克世《鏡よ、鏡》 2006年
2つめの部屋に入ると、青木克世(1972年生まれ)の《Tell the Story》というタイトルの、陶器でできた杖のようなものが床に着いていた。
その杖と向かい合うように《鏡よ、鏡》(画像b)という洗面台のような作品が壁に掛かっていた。
杖も洗面台のようなものも、絵本や子どものころに読んだ物語から抜け出たような、あるいはドラクエのようなファンタジーなゲームに出てくるような、そんな親しみを感じる。
なぜ陶磁器でつくるのだろう、なにかに石膏を垂らして白くする作家はあれこれ心当たりがあるけれど。

他にも染谷聡(1983年生まれ)の《Praying for Rain》(画像c)のような「面白い」漆の作品もある。
漆というと、椀や盆といった食器を思い描きがちだが、染谷の場合、あの質感で動物などの立体をつくり、表面に金や濃い朱色などで小さな柄、デザインが施している。
しかもその柄、デザインは、よく見ると某有名ブランドのロゴマークに似ていたり、社会風刺のような要素が込められている。
 

 c) 染谷聡《Praying for Rain》 2005年

 

素材は陶磁、ガラス、漆といった工芸のものでありながら、形や色や絵柄は現代風の不思議な立体がショーケースに並ぶ。
上記に挙げた以外に、大原れいら(1980年生まれ)、梶木奈穂(1981年生まれ)、花塚愛(1982年生まれ)、中村牧子(1982年生まれ)、田中知美(1983年)、越川久美子(1983年生まれ)、佐合道子(1984年生まれ)、服部真紀子(1984年生まれ)、齋藤大輔(1985年生まれ)、村上愛(1985年生まれ)、篠崎裕美子(1987年生まれ)、と出品作家29作家のうち80年代生まれが13人も占める。
青田買いをしている気がするのは、私だけであろうか。

「美術とは」あるいは「工芸とは」という問いに対して、答えはあるのだろうか。
美術であっても工芸であっても、作家本人の問題である手法や技法、素材を選ぶこと、また、観客サイドの問題である鑑賞する、愛でること、いずれも違いはない。
実用的か、という点で考えても、工芸品と呼ばれるものが茶碗や花瓶だけではない。
この展覧会では「その形、アート?工芸?」「その色、アート?工芸?」と悩ましいものが多かった。
「それってロック?ポップス?」と疑問に感じていては音楽が聴けないように、もはやカテゴライズする行為自体が、現代社会と乖離していることなのかもしれない。

現代工芸への視点―装飾の力
2009年11月14日〜2010年1月31日

東京国立近代美術館工芸館 (東京都千代田区)
 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ、東京都在住。
編集作業に命そそぐことにしました。
オシゴトください。→chisaichan@hotmail.com




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