topreviews[風景ルルル〜わたしのソトガワとのかかわり方〜/静岡]
風景ルルル〜わたしのソトガワとのかかわり方〜
そこには居心地のいい風景がありました
TEXT 藤田千彩


実は去年(2008年)、私は静岡県内に3回行っている。
しかし静岡県立美術館にはこれが初めてだった。
よくある地方の駅だった「草薙」で降り、そこからバス、しかも行程の半分以上は美術館がある公園の敷地だった。
なんて不思議な場所にあるのだろう、展覧会タイトル「風景ルルル」どころか、この風景にルルルしてしまいそうだ。

バスを降り、入口に入って広がる吹き抜けエリアに、巨大な内海聖史の作品が2つ掛けられている。
こんな大きな吹き抜けにもびっくりしたが、それにしがみつくように負けない内海の作品の強さにも驚いた。(画像=a)

風景という言葉で、つい「風景画」というジャンルの絵だと考えがちだ。
柳澤顕の竜巻のなかにいるような作品(画像=b)や、小西真奈のスナップショットのような作品(画像=c)が、思ったとおりの風景を描いている作品だ。
絵画という二次元の世界を、空間という三次元に見立てて入り込むこと。
美術鑑賞ではこのような行為をしなくてはならず、キャンバスの大小、描かれている内容など、入り込めるものとそうでないものがある気がする。
小さいキャンバスでも、自分が描かれた作品の中に入っているような気持ちになる、というトリップもしてしまう。
柳澤の作品は、壁一面をつかっているせいか、自分の周りをぐるっと取り囲まれて、作品を「見入る」というより、作品に「つかる」という気持ちになる。
小西真奈の作品は、柳澤のものより小さいが、同じように作品の中に私も入り、既に描かれている人=友人のような錯覚で、私もその場所へ遊びに行っている気になる。

美術鑑賞というのは、一対一の問題だと思う。
そのため、こういう行為はあくまで一人で体感するものだ。
私が描かれている絵の中に入り込んでいるとき、手をつないでも他人は一緒に味わうことができないと思う。
しかし会場には既にカップルが数組いた。
どうやらデートにうってつけの展覧会らしい。
どうプロモーションをなされていたのかしらないが、チラシ(画像=d)にも使われている森本美絵の映像を見る限り、たしかにデートで行きたくなる展覧会だ。
a
 
b
 
c
 
d
   

e
 
f
 
g
 
美術鑑賞が一対一の問題だとしたら、美術ライターをしている私は、この「風景ルルル」展の作家ラインナップに、ゆがんだ気持ちを抱いていた。
本当かどうか知らないが「学芸員は美術手帖を読んで作家を知る」らしい。
美術業界的にはメジャー(もちろん一般社会では誰も知らない)作家ばかりだからだ。

そうは言っても、作品が群れて並んでいる風景はいいものだなと思う。
特にこの(画像=e、f)あたりのように、照屋勇賢や高木紗恵子の作品がある部屋は、木漏れ日が指す窓辺の喫茶店にでもいるような雰囲気だ。
私の家も壁には絵画、机には立体、柔らかな風が吹いていきそうな気持ちになれたらいいのに。
私が東京で「レビューを書きたい」と申し出ても、所属ギャラリーの許可が下りなかった作家も入っている。
どういう基準で作家を選んでいるのかしら?と意地悪く考えてしまう。(画像=g)

「これってどうやってつくってるんですか」
カップルの彼氏が、美術館監視員のお姉さんに尋ねている。
あたかも「コーヒー2つください」と言っているような声だった。
そう、照屋の作品は不思議。
樹木を立てているように、一枚の紙袋の中をこまやかに切ってつくっているとわかっていても、本当にそれが出来るの?という気持ちも生まれる。

久しぶりに佐々木加奈子の作品も見た。
3分40秒の映像作品に、ちらっと見るのではなく見入ってしまう。
他の女性2人もそう。
私がつい深いためいきをついたら、彼女たちも「ふーむ」と言っていたのが面白い。
作品という木々の間を散歩していくうちに、私のゆがんだ気持ちは薄れていった。
面と向かって話してはいないが、会釈や目を合わせるときのように他の鑑賞者と小さな交流をしていくことも楽しかった。
h
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しかも最後の最後に面食らった。
企画展スペースから出てすぐの「常設展示」。
所蔵品を単純に並べているだけの常設展ではなく、所蔵品と今回の企画展の作家の作品を並べて展示していた。
コーナー名はずばり「Resonance(リゾナンス)−共振する感覚」
掛軸と現代美術(現代絵画)の併置(画像=h、i)というのは、普通はしない。
しない理由さえ知りたくなるくらい、すごいこの並びがマッチしていた。
おじいちゃんと孫が並んでいるような?いや、和服とドレスが並んでいるような?、ほんとに違和感がなく、逆に面白かった。
しかも表面的な問題ではなく、実のところ同じことを言い(描き)たかったんじゃないかと考えさせられる。
時代によって流行語があるように、並んでいる絵もその時代に合ったものというだけに違いない。

ふーん、見終わるとまた邪念が入る。
でも今日はいい風景、いい景色に出会えたじゃないか。
それでよし!
とまたバスに乗って帰った。
もう外の風景は目に入らなかった。

このページの画像は全て
撮影:長塚秀人(C):静岡県立美術館



風景ルルル〜わたしのソトガワとのかかわり方〜
2008年11月3日(月・祝)〜12月21日(日

Resonance(リゾナンス)−共振する感覚
2008年10月28日(火)〜12月26日(金)

静岡県立美術館(静岡県静岡市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がけていた。
美学校トンチキアートクラス修了。
今月の「美術手帖」は10項目も取材&書いてます。

お仕事の依頼 → chisaichan@hotmail.com




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