ウラギリという裏切り
TEXT 藤田千彩

ある夜、私はギャラリーの外から中をのぞいていた。
ひっそりとした、暗すぎてうまく見えないギャラリーには、トランクやスピーカーのようなものとキャンバスに描かれたかれた平面作品しか見えなかった。
「なんだこの展示は」
作品を見せる場、あるいは、作品を売買する場、というギャラリーにしては、あまりに閑散としていた。

別の日、ギャラリーがちゃんと開いている時間に私は改めて行った。
やはり、トランクやスピーカーのようなものとキャンバスに描かれた平面作品しかなかった。
「ふーん」
クリアギャラリーの展示にはいつもドキッとして、このドキッという感覚が美術にしか味わえない心地よさや驚きなのに、今回ないなんて。
芳名帳に名前を書いて帰ろう。

と、受付台で名前を書き、くるっと姿勢を変えた瞬間、ドキッとした。

そう、トランクのようなものは、トランクのようなものでしかなかった。
つまりトランクに似せてキャンバスを張り、トランクのような表面を施した「絵画作品」であった。
裏に木枠が組まれ、表面にキャンバスが張られている。
なんだ、このウラギリは！！

そうなるとすべての作品に懐疑をしてしまう。
なぜこんな作品を作るのか、と不思議にも思いながら。
時間を忘れ、ドキッという感情をこめたためいきをつくだけだった。