topreviews[第2回 シセイドウ アートエッグ /東京]
第2回 シセイドウ アートエッグ 窪田美樹展 「DESHADOWED- かげとり」

その作品、
本当に「いい」と思いますか?

TEXT 藤田千彩

a

資生堂ギャラリーの公募展「shiseido art egg」がはじまった。
357件の応募の中から選ばれた3組の作家が、3週間ずつ発表を行うことのできる展覧会で、
トップバッターとして窪田美樹が展示を行った。

 
b
c
 
資生堂ギャラリーは、銀座の東京銀座資生堂ビルの地下にある。
階段を下りて、ギャラリー本体と地上をつなぐ中2階部分の入口に、
PEELERのインタビュー画面のタイトル横の画像としても登
場する《かげとり(虫)》(画像=b)が飾られている。
開かれた門のように、壁に貼り付けられている。
中2階部分は天井が低いが、広がりがあるのできつく感じない。
窪田の作品は広い空間であればあるほど、私自身が『作品の存在を強く受け止める意志』を持たねばならない。
それは階段を下りて、すべての作品を見上げたとき、まず最初に私が思ったことだった。

これまで窪田の作品を見たことがある人と見たことがない人では、かなり意見が違うと窪田が言っていた。
私も何人かの友達や知り合いと、幾度となくこの展覧会を訪れた。
10年来の友人もいれば、東京に久しぶりに来たという知人もいて、いろいろな人とこの展示を見た。
どの作品が好きか、どうして好きと思うのか、と問うと、
各々が選ぶ作品や理由に食い違いが見られた。
しかし共通しているのは「見たことがないものを見た」と口走ることだった。
アートの世界ではそのセリフは『褒め言葉』である。
しかも彼らは真顔で言っていた、「いったいなんなのだろう、作品も感覚も」と。

私自身は窪田のことを完全に分かっているつもりはないし、
話しているときでさえ、ときにボタンの掛け違いに似た誤解や不理解もしてしまう。
立体の作品《かげとり》のシリーズ(画像=a)は、家具をもとにして作られていて、
今回床置きされていた《Trace》のシリーズ(画像=c)はビニールシートを重ねている。
ということくらいの知識を伝えた。
しかし友達や知り合いは「材料は分かるけど」とまた不愉快そうな顔をした。
それ以上は私の出る幕ではない、私も口ごもるしかない。

口ごもりながら、私は次の言葉を発しようと、自分の中で答えを探す。
d
e
f
 
g
 
このページの写真は全て
写真提供 資生堂ギャラリー
撮影 加藤健
私が一番好きだと思ったのは、《かげとり 皮膚を眠らせる》(画像=d)という作品だ。
木でできたソファ、私にはバスタブをひっくり返して重ねたような、見たまんま
の形には興味がなくて、
上から押さえられているようなぎゅっとされた気持ちよさ、
だけどホントはその中には何もつまってなさそうな空虚感、
押しつぶされてむにゅっと出てる、本当は柔らかであろうえんじ色のクッション部分の苦しさ、
クッションの色は私にはこげ茶色に見えて、そういう視覚の差異もまた面白く感じ、
ぺロッと舌を出したようなはみ出し具合、
そして床置きだから(宙吊りじゃない)きちんと見ることができる安心感。
それらがひとつになっているから、私は好きだし気持ちいいと思う、
と伝えようと列記していったら、いかに私が感覚人間か分かってしまう。

でもこの展覧会を見た人は、誰もがみんな、そういう感覚人間に陥ってしまったに違いない。

ある人は《かげとり 瑛な子》(画像=e、f)の薄さに魅かれ、
どうやってこの薄さを手に入れたのかをひたすら考えたといい、
別のある人は《かげとり 霧をすり潰す》(画像=g)のちりばめられた宙に浮くウッドビーズに、
女性らしさを感じたという。
ただそれらの言葉は、一生懸命言葉を探して口にしたような言葉であって、
本当に言いたいことは、言葉にならない感覚的なものとして、
そして彼らの(あるいは私の)心や体に、じんわりしみこんで行ったのだ。

瞬間で色や形を「よい」「好き」と思える作品が、
つまり売れることを目的とした作品が、
多く発表されている(目にする)世の中。
窪田のような感覚に訴える作品は、正直言って時代に合ってない、損だろう。
しかし美術作品には、表面的な美や利益を求めてはいけない。
作品と向き合って感じる時間、考えることのできる余地があることが大切だ。
窪田の作品は流行を追うことや言葉にすることの不必要性を気づかせてくれた。

作品を「好き」とか「いい」とか言う私たち観客自身の問題だからこそ、
私たちがいま本当に見ていくべき美術のありかたも問うている。
そしてここから新しい時代を作っていく美術のありかたも問われている。


第2回 シセイドウ アートエッグ

資生堂ギャラリー(東京都中央区)
2008年1月11日〜2月3日
 
著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がけていた。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」などでアートに関する文章を執筆中。
chisaichan@hotmail.com




topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.