topreviews[字界へ―隘路のかたち/愛知]
字界へ―隘路のかたち
新・旧の共存する町で
TEXT 河田亜也子
文化の家展示室
左側手前5点 冨井大裕/左奥及び正面と右側壁面の平面作品6点 星野武彦/右側の立体作品4点 佐藤克久
Photo By Ayako Kawata

 愛知県の中央部、名古屋市の東にある長久手町の中には、昔ながらの商店や民家が建ち並ぶ区域と、新しく建てられた公共施設や住宅地が広がる区域がある。大都市・名古屋のベッドタウンとして西側から開発が進みつつあるこの地域は、新・旧のコントラストが著しい。先端技術の象徴とも言える万博が開催されている長久手町は、そのような町
である。

『字界へ』展で文化の家から旧岩作商店街への移動のために企画側が作ったリーフレットの地図
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 7月、『字界(あざかい)へ』展の準備をしていたある日の夕方、私は展覧会のために用意したレンタサイクルのルートを確かめるためと気分転換も兼ねて、まだ完成前の地図を片手に香流川沿いを歩いてみることにした。香流川は長久手町を横断する小さな川で、私たち愛知県立芸術大学芸術学専攻の小西研究室(『字界へ』展企画者)は本展覧会の文化の家会場から旧岩作商店街会場までの導線をこの川沿いに引いたのだ。暮れゆく夕日が辺り一面を橙色に染め上げ、徐々に涼しくなっていく空気が肌に心地よい。
川沿いの狭い道の脇には、時たま畑や民家がある。褪色した壁がその建物の古さを物語る。しかし、時々パステルカラーの新築の建物も混じっていて、それらは少し唐突な印象も与える。

 長久手町の大部分やその他の都市近郊で使われている、町や村をさらに細かく分ける「字(あざ)」という界名を示す文字は、今や都市部に住む人間には聞き慣れないものとなっている。万博と会期が重なり、その会場がある長久手町を舞台にしたこの展覧会は、先端技術の隆盛の中で、私たちの視線をこの字界へと向け、その足を土地区画整理がなされていない、曲がりくねった道へと導くことを意図している。

 出品作家はいずれも芸術大学や美術大学の学生、あるいは卒業(修了)して数年の若手である。「長久手町文化の家」会場には川見俊、佐藤克久、椎木静寧、冨井大裕、星野武彦の5名、旧岩作(やざこ)商店街の4箇所の会場には泉孝昭、小栗沙弥子、木村充伯、後藤穣、小林大地、堂端徹、永田圭の7名が出品した。

冨井大裕〈measure〉
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Photo By Ikumasa Hayashi

川見俊〈無題〉
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Photo By Ikumasa Hayashi
 展覧会に来て最初に辿り着くであろう会場、「長久手町文化の家」は、近年建てられた新しい施設で、新しさの陰に潜んだ「字」的な要素は一見してみられない。しかし今回、文化の家に出品した作家の多くはメインの展示室の他に、その真新しい建物の中の、今にも忘れ去られそうな「字」的な要素を見つけ出し、そこにスポットを当てた。
冨井大裕の〈measure〉は、展示室の入り口に工業製品のメジャーを設置した作品である。メジャーは入り口の縦幅を測っている。通常、通過してしまえば用が済む入り口という場所にメジャーが介入する事で、人はそこに違和感を覚え、それまで見えてはいるものの意識していなかった「入り口」という存在を再認識する事になる。

 また、人の流れがほとんどない文化の家3階に設置された川見俊の〈無題〉は、スーパーの一角に設けられたゲームコーナーで、買い物篭を持った客がまばらにその前を通る中、ウサギやパトカー等の形をしたゲーム機が6体動いている映像作品である。しかし本来それらを操っているはずの子供の姿は見当たらず、ゲーム機のあざやかなピンクや黄色がその不在感を助長している。ゲーム機たちは誰にも必要とされる事なくその「可愛い」巨体を揺らし続けるのだろう。

 佐藤克久の〈虹(サイコロ)〉は、お菓子のさいころキャラメルの赤い箱の中に小さな虹が掛かった作品で、電話が撤去された後のスペースに展示されている。椎木静寧の〈a ground line〉は、長久手町の開発前の地域と開発後の地域の、境界線上の8箇所で拾った音を基に構成されたサウンド・インスタレーションである。星野武彦の〈down by the river〉は、まるでパズルの中からこぼれ落ちた1ピースのように、地続きの空間から切り取られた山脈や地面を描いたドローイングである。

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「字界へ―隘路のかたち」
(あざかいへ―あいろのかたち)

2005年7月29日〜8月10日
愛知県・長久手文化の家および町内4箇所
主催/長久手町
企画/愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻小西研究室

著者プロフィールや、近況など。

河田亜也子(かわだあやこ)

1984年 愛知県生まれ
現在 愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻在籍




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