top\reviews[借りた場所、借りた時間−photographers' gallery横浜展−/神奈川]
借りた場所、借りた時間−photographers' gallery横浜展−
西村康
DO THE RIGHT THING」
横浜が熱いぜ!
TEXT 石山さやか

 生ぬるい海風に吹かれつつ、横浜のBankART Studio NYKへ。
赤レンガからコスモワールドの観覧車まで一望できる素敵な立地のこの建物、もともとは日本郵船の倉庫である。この日は展覧会初日で人が多かったものの、建物の中はひんやりしていて集中して作品を見ることができた。

 一階入って右に北島敬三の「PORTRAITS」シリーズ。白いシャツを着た人物の写真が続くが、髪型や化粧だけ変えた同一人物の写真も混じっている。何枚も見ているうちに別人と同一人物の区別が付かなくなってきて、目眩がしてくる。
 左奥は本山周平の風景写真。人の立ち入らなさそうな里山や廃墟がどんよりしたモノクロームで写しとられている。探検のような、心細い感覚。
 左手前と奥の部屋は王子直紀。次々とプロジェクターに写し出される街と人のスナップ写真「××××STREET SNAPSHOT」が圧巻だった。おそらくはファインダーを覗くのもそこそこに、通行人の許可も得ずに撮影しているのだろう。手ぶれ、斜め構図、指入りは当たり前。人物はだいたい頭がちょん切れているし、一般的には規格外な写真が続くが、なぜか見入ってしまう。
 そして二階に上がるとさらに様々なタイプの作品群が待ち受けているわけだが、ここでなんとなく普通の写真展ではないようだと気付いてくる。そもそもこの展覧会の題にもあるphotographers' galleryとはなんなのか。写真家団体?それとも写真専門ギャラリー?
答えは両方ともyes。そしてand more。新宿2丁目にあるphotographers' galleryは写真家たち自身が共同運営しているギャラリーだ。つまり作家自身がギャラリー主。さらに自ら出版やイベントも手がけ、こうして過去に数回ギャラリー外でのグループ展も行っている。その会場が沖縄から青森まで、実に幅広いのにも驚いた。
自らが作品をつくり、自らが企画をしなくてはならない。それは作品制作以外の作業にも多く時間をとられるということだし、金銭的にも決して楽ではないはずだ。しかし逆に、スポンサーなどの意志に沿うことなく自分の表現に正直に作品が作れる、とも言える。
名古屋のロカビリーたちを真っ正面から捉えた元田敬三「名古屋が熱いぜ!」、日本各地のマイナーな観光地や広島の平和資料館の光景を、少しずらしたような視線で切り取る笹岡啓子「観光 KANKO」「PARK CITY」、作家各々の表現スタイルは本当に多岐に渡っている。同じ集団に属するからと言って足並みを揃えようなんて考えは、この人たちは毛頭持ってないのだろう。ただ、どの作家の作品にもひりひりした焼け付くような感覚、自分はずっと写真をやっていくんだ、写真でなにかを探してゆくんだというしっかりした指針のようなものを見ることができた。今回の展覧会には5年間の活動の総括的な意味合いも含まれているそうだが、私はむしろ、これまで進んできた、そしてこれからも変わりながら進んでゆくこの集団の現在進行形的なかたちを見た気がした。
会場にはphotographers' galleryの出版物なども数多く置いてあり、これらを眺めているだけでも時間はどんどん経っていってしまう。スタジオを出ると、既に日は落ちて海風も幾分涼しくなっていた。

 
左)
北島敬三
「PORTRAITS」

右)
岸幸太
「傷、見た目」
 
 
借りた場所、借りた時間
photographers' gallery横浜展


BankART Studio NYK
6月25日(土)〜7月10日(日) 入場料500円
photographers' galleryホームページ
著者プロフィールや、近況など。

石山さやか(いしやまさやか)

1981年埼玉県生まれ
2003年創形美術学校卒
現在フリーター。イラストと文章少々書けます。
現代美術はまあまあ好きです。
 

topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERnewslettermail

Copyright (C) 2005 PEELER. All Rights Reserved.