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安部 泰輔
『毎日森』作品の境界・美術と日常の境界をまたぐ
@横浜トリエンナーレ

TEXT 中村千恵
photo by bob



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集めた古着を小さく切り、はぎあわせる。それを使って両手を合わせたくらいの大きさのぬいぐるみを作り続けているのが、安部泰輔さんだ。横浜トリエンナーレ会場で毎日ミシンを踏み続ける姿を見ることができる。

できあがったうさぎ(みたいなもの)やふくろう(みたいなもの)たちは森の木の枝のような洗濯の物干しに逆さにとまり、気に入った人に連れて帰られることもある。Aさんは1000円で自分の所有物にすることができるけど、それを身につけて会場を歩くことで、Aさんは作品を展示する支持体にもなっている。そうして、動かないはずの作品と展示場所は会場内に点在していく。

物干しが下がっている木の下には円形のマットが敷いてある。その円形の境界が、見られるものとしての作品と、視線を投げかける存在としての鑑賞者を隔てているように見えるが、くつを脱いであがってそこに寝そべって作品を見上げることもできる。そうして作品に介入しつつ、さらに外側から見れば介入している人も作品の中に入っていることになる。

自分の着ているものは気に入ってようとなかろうと、洗って干してまた着て、を繰り返すうちに、少しずつ自分の一部になっていくような気がする。作品を構成する布たちはそれぞれ人の一部たちが集まることで、特定の誰かでない「誰か」の集まりになる。それは誰も想定しなかった存在だ。それぞれの古着の元の持ち主も、それを切った人も、はぎあわせた人も、ぬいあわせた安部さん本人も。新しいひとつの形を得たぬいぐるみたちは、想定しなかった人と出会い連れて行かれる。

区切られた場所をまたぎ想定されないものに出会うこと。想定できないことを引き起こすこと。美術の場所に人の日常がしみこんだものを介入させること。想定されないことが起こることには嫌悪や恐怖を感じたりしがちだけど、想定されないことが起こるのが現実だし、だからこそおもしろいのだと、わたしが家に連れて帰ったきらきらがついたうさぎ(のようなもの)を見ながら思った。






著者プロフィールや、近況など。

中村千恵(なかむらちえ)

1979年、愛知県豊田市生まれ
2000年、北九州で美術に出会う
現在、東京で派遣しつつ美学校アートプロジェクトラボに通っている。


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